終末期のがんで苦しむ90歳近い母親と、
そのそばに付き添う年配の息子さん。
それまで苦しそうだった母親を一瞬
にして穏やかな気持ちにさせ
た、魔法の言葉とは。
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鈴木 秀子(文学博士)
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皆藤 章(臨床心理士)
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【鈴木】
いま皆藤先生は「命に寄り添う」と
おっしゃいましたけれども、私は
ある地方に旅行をした時、そ
れを実感する出来事に出合いました。
「苦しんでいる終末期の人がいる。
来てほしい」という連絡が入って
行ってみると、90歳近い母親
に年配の息子さんが付き
添っていました。
「痛いよ、苦しいよ」とわめく母親に、
息子さんは「母さん、痛いか、苦し
いか」と話しかけていました。
私はその様子を見ていて、息子さんに
「母さん、痛いよね、苦しいよね」と
気持ちを寄り添わせてみたらどう
ですか、と伝えて、息子さんも
そのように語りかけました。
すると、驚いたことに母親が次第に
おとなしくなり、表情も穏やか
になっていったんです。
ああ、この息子さんはいままで母親の
苦しみを取ってあげようと頑張って
いたけれども、苦しみと相対する
ところに自分の心を置いていて
二人の間には距離があった。
かける言葉を少し変えただけで、母親に
ピッタリとくっついて同じ命を生き始
めることができたんだ、と気が
ついたんですね。
【皆藤】
クラインマン先生はケアの本質はラブだ
とおっしゃっていましたが、まさに
そういうことだと思います。
そのラブとは若い人たちの性愛的なラブ、
未来に向かって開かれていくラブでは
なく、ある年齢まで生きて次第に
弱っていく相手に対するリス
ペクト(尊敬、敬意)だというんです。
鈴木先生のご著書には「感謝」という
言葉が数多く出てきますが、リス
ペクトという言葉はそれと
繋がるものがあるような気がします。
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最新号の特集テーマは「利他に生きる」
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『致知』2018年5月号【最新号】
特集「利他に生きる」P26
今回も最後までお読みくださり、
ありがとうございました。感謝