人気クイズ番組の回答者として知られて
いた学習院大学名誉教授の篠沢秀夫
さんが亡くなりました。
この10年ほど、ALS(筋萎縮症側索
硬化症)という難病と向き合い続け
てこられました。
声を失い、動くこともできない日々
を篠沢さんはどのような思いで乗り
越えてこられたのでしょうか。
───────「今日の注目の人」───
篠沢 秀夫(学習院大学名誉教授)
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話すことができず、動くことも困難に
なったいま、私は「古代の心」
で生きています。
現代は情報が多く、自分と他人とを
比べてしまいがちです。
子供の育ち方が平均以下と思って殺して
しまう母親の話など、目を覆いたく
なるニュースが溢れています。
一方、身の回りしか見えない古代の
人は呑気だったことでしょう。
余計な情報がないので、他と比較して豊か
だとか貧しいとか考える必要もありません。
ありのままの自然環境を受け入れて、伸び
やかに仲良く生きていたであろう古代人。
古代の心では、目に見えること
しか分かりません。
それでいいのです。
現代も全人類の奥底に眠っているこの
古代の心で、いまを否定するのでは
なく、いまを楽しむ。
それを提起するのが、ALSの発症後
に着想した、新古代主義・ネオ
アルカイスムです。
「こうならなければよかった」「元気な
人が羨ましい」などと思うと、心が
沈み、体が重くなります。
けれども私のいまある姿は、人工呼吸器を
付けたことにせよ、自分で選んだ結果です。
他人を思い煩うことなく、我が道を行く。
そう心に決めて、この一瞬の自分の体に
満足すれば、お天気がいいだけでも
嬉しいと感じます。
声が出せなくても、心の中で好きだった
フランス語の詩を吟じ、フランス
民謡を歌っていられます。
そして、いましようとすることを決めて、
一つ上の目標を定めると、心が躍ります。
ベッド暮らしになってからは、毎日2時間
は執筆に充てると決め、既に『ぶる ぶる
ぶる ブルターニュ大好き』『美しい
日本語の響き』『命尽くるとも 「古
代の心」で難病ALSと闘う』の
3冊の本の刊行が実現しました。
昨年は『クイズダービー』以来の知人で
ある女優の長山藍子さんから、陽気で社
交的な私の妻・礼子を、劇で演じたい
とのお申し出がありました。
劇の脚本の土台とするべく、夫婦自伝
物語『明るいはみ出し』を半年かけ
て書き上げました。
妻との出会いからいままでを楽しく綴り、
大変な分量になりましたが、既に校正
刷りとなり出版は間近です。
(中略)
人生、何事も上手くいくとは限りません。
一時の成功も振り返れば大したことでは
ないと気づいたり、失敗して打ちひし
がれることもあります。
けれども心の苦しみについては、語ら
ないことで耐えるしかありません。
悲しみは口にしないでじっとこらえ、やり
直して明るく前へ進めばいいのです。
困難に遭うたび、私は自分にそう言い
聞かせて乗り越えてきました。
「前進 前進 また前進」はいまも
昔も私の行動原理です。
『致知』 2012年3月号
特集「常に前進」P18
今回も最後までお読みくださり、
ありがとうございました。感謝!