うしろを見れば見るほど未来が見える 第 2,796 号

 「現代でもロシアはソ連時代と同じ戦略を

用いて、EUに傾くウクライナを阻止した。

 ところが西側の情報分析官は、ソ連の歴史を

理解していながら、ロシアのクリミア半島

併合やウクライナ東部への軍事介入を

予測できなかった」

 1982年3月、ロンドンの国会議事堂で、

マーガレット・サッチャー首相は顔を

しかめて、私が手渡した報告書

を読んでいる。

 そして、「これはまずいわね」と言った。

「はい、首相」と私は答えた。

 「報告書からは、アルゼンチン政府が

フォークランド諸島へ侵攻する準備を

完了しつつある、としか読めません。

おそらく、今度の土曜日でしょう」

 私は当時、ジョン・ノット国防大臣の主席

秘書官だった。フォルダに入っていたのは、

アルゼンチンの海軍通信を傍受し、暗号

を解読した通信文だった。演習中の

艦艇が再結集しているとのことだった。

 艦艇の座標を分析した結果、目的地は、

フォークランド諸島のポートスタンリー

に間違いないとGCHQは結論を出していた。

 合同情報委員会(JIC)の直前の評価は、

アルゼンチンは武力を用いるのは避け

たいと考えている、とのことだった。

 イギリスが突然、フォークランド紛争に

突入することになった衝撃は、私の記憶

の深くに、いまだに残っている。誤っ

た判断が、どれほど大きな影響を

もたらすかを見せつけられたからだ。

 情報を武器にすれば、リスクは

チャンスに変えられる。

 相手の立場で考える。

 真の信頼関係を構築する。諜報機関は、

強固な協力関係に価値があることを

十分に学んでいる。

 思い込みに頼って間違えたときは、とても

大きな過ちになる。専門家さえ、この罠に陥る。

 いったん妄想にとらわれると、なんでもない

ことを陰謀の裏付けとして解釈するように

なる。私の経験では、秘密情報の世界

でも、陰謀よりもへまをして失脚

するほうが確実に多い。

 双方が交渉中であることを公に認めたくない

場合には、外交の「裏ルート」が対話を維持

するために重要な役割を果たしうる。

 チャーチルは、言った。「うしろを見れば

見るほど、未来が見える」

 本書は、その手法がスパイだけでなく、

ビジネスパーソンも応用できる

ことを教えてくれる。

デビッド・オマンド (著), 月沢 李歌子 (翻訳)

     『最強の知的武装術。英国諜報機関』

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  今回も最後までお読みくださり、

      ありがとうございました。感謝!

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