♠ 『韓非子』のいいところ ♠
數土文夫(JFEホールディングス
特別顧問)
×
出口治明(立命館アジア太平洋大学
〈APU〉学長)
古典に精通したお二人のお話は話題
が豊富で、興味が尽きません。
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【數土】
他にも例えば、『韓非子』を読んでいれ
ば、理不尽なことを言う人がいても、こ
れは理解してやらないとダメだと(笑)。
【出口】
ああ、『韓非子』を読んだら、現実にか
なり酷い人がいても許せますよね(笑)。
【數土】
ええ、許せます。
【出口】
世の中のたいていの悪い人に対しても、
「まぁ仕方ないな」という寛容な気持
ちになれる。これが『韓非子』の
いいところです。
【數土】
そうなんです。
【出口】
『韓非子』には本当に凄まじく悪い人
が桁外れのスケールで描かれている
ので、現実に会う人は多少悪く
てもスケールが小さいとい
うか、甘いというか。
【數土】
そうそう。皆が優しく見えてくる。
例えば、王様が料理人に向かって、おま
えの料理はすごくおいしいけど、俺は
人間の赤子だけは食べたことがない
と言ったら、その料理人は自分の
子供を料理に差し出すんですから。
それから、『孫子』を読んでいると、孫子
がここまで準備を徹底しているのなら、
これは自分が失敗するのはやむを
得ないなと。冷静に自分を省
みることができる。
【出口】
東洋の古典はありとあらゆる人間の極限
の姿までもが描かれている気がするの
で、幅も広いし、深さもある。
【數土】
だから、あらゆる古典を読んでいれば、
想定外なんて存在しないんです。想定
していたけど、いろんな制約があっ
て間に合わなかったというなら
まだしも、想定外と言う人
は古典を学んでいない
証拠であって、自分
は愚か者だと言っているようなものだと。
【出口】
そう思います。人間の5,000年の歴史を
見ていたら、考え得ることはすべて現実
に起こっているので、想定外と言う
のは勉強不足だという気がします。
【數土】
私は大した経験はしてないんですけど、
それでも2、3年に1回くらいのペース
で、「どうしよう。これは進退窮
(きわ)まった」という事態に
直面してきました。
だけど、その時にハッと考えて、「いま
の自分の立場は『史記』や『十八史略』
だったらどのケースに当てはまる
だろう」とか「諸葛亮孔明だっ
たら、曹操だったら、太宗
だったら、魏徴だったら、
どう判断するか」と
古典をダーッと検索すると、
その時に相応しい答えが見つかって、
ここで窮まったと考えるのはまだ
まだ甘いなと思い直すんです。
やっぱり目先のことだけを考えている
と、視野が狭くなって進退窮まりますよ。
『致知』2018年11月号
特集「古典力入門」P66
今回も最後までお読みくださり、
ありがとうございました。感謝!