中古車販売業界を変える。その志を持ってガリバー
インターナショナル(現・IDOM)を創業した
羽鳥兼市さんですが、若い頃は苦労の連続でした。
多額の借金を返済してなお、厳しい税金の取り
立てにあって、やりきれない気持ちでいた。
羽鳥さんを救ってくれたのは、真摯に祈りを
捧げてくれたお坊さんの後ろ姿でした。
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羽鳥 兼市(IDOM名誉会長)
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村上 和雄(筑波大学名誉教授)
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【村上】
羽鳥さんはお母様の影響も強く受けられていますね。
【羽鳥】
実はおふくろに助けられたことがあって、倒産
で背負った借金3億円を3年間で全部払い
終わった半年後のことでした。
突然、国税局が入り込んでくると、根掘り葉掘り
聞かれた上に、数億円の税金を取り立てる
と言ってきたんですよ。
(中略)
もう毎日のように、これはどうなった、この帳簿を
見せろとか言われても、こっちは納得でき
ないじゃないですか。
やっとの思いで義兄の借金を全部払い終わってほっと
していたのに、何でまた税金を何億円も払わ
なくちゃならないんだって。
そう思うとイライラして、彼らの言うことに
逆らってばかりいたんです。
やっぱりそういう感情って、顔に出るんですね。
ある晩、おふくろが車に乗せてほしいと言うので、
言われるままに運転すると、着いたのは30キロ
くらい先にある山中のお寺さんでした。
既に11時近くだったと思うのですが、おふくろが
お坊さんを起こして、「最近、息子がイラ
ついて、おかしな状態になっている
ようだから祈祷してください」とお願いするんですよ。
【村上】
真夜中の祈祷ですか。
【羽鳥】
ええ。自分も訳が分からなかったのですが、しようが
ないので黙って本堂について行くと、すぐに護摩
焚きが始まってお坊さんが拝み始めました。
おそらく1時間以上続いたと思うのですが、とにかく
手を抜かないで一所懸命拝んでくれる。そんな
お坊さんの後ろ姿を見ているうちに、この
方は何が楽しみなんだろうか、そも
そも人の幸せって何だろうかって、ずっと考えていました。
そうしたら、ふと、お金がすべてじゃないんだと気が
ついた。それよりも、人に喜んでもらうために一所
懸命やる。それが生き甲斐になるんだって。
一方、自分はというと借金を払った上に税金まで
取られるのが嫌だから、何でもかんでも
逆らってばかりでした。
でも、もういっそのこと徴収されるだけ徴収されるのも、
面白いじゃないかと。また何億円払えと言われたって、
返すのをゲームのように捉えて、一日でも早く完済
していくのも楽しいかもしれない、ということに気づきました。
【村上】
開き直ったわけですね。
【羽鳥】
ですから次の日に国税局の方が来た時に、開口一番「何でも
言ってください。何億円でも何十億でも言われるだけ払
いますから」と言った。「もう覚悟を決めました」
って。そうしたら、その日の午後2時頃に、
「状況は分かっていた。でもあまり
に逆らうから 徹底的にやろうと
思っていたけど、きょうで終わります。
あんたが心を開いてくれたんで、もういいですよ」と
言って、数億円かかるところを最終的には1,000
万円ちょっとくらいで解決してくれたんです。
こちらが心を開いていないと戦争になる。でも開く
と、サッと解決する。そう気づかせてくれたのが
おふくろであり、お坊さんの後ろ姿でした。
『致知』2017年3月号
連載「生命のメッセージ」P114
今回も最後までお読みくださり、
ありがとうございました。感謝!