野望のある人間は、その遠大な目標のためなら、
ときに泥水をすすり、不倶戴天の敵に頭を下げ
ることもできる。裏を返していえば、野望の
ために身を撓め、いかなる逆境にも耐え
抜くことのできる者こそが、真の英雄であろう。
政宗にかぎらず、戦場でつねに命の危険にさら
される戦国武将には、多かれ少なかれ鉢の底が
抜けたような死生観がある。また、そうした
死生観を持たなければ、苛酷な現実と対峙
していくことはできない。
天下の政とは、一筋縄ではいかぬものだな。
さまざまな人の思惑が絡み合い、天下は動
いている。一筋縄ではいかぬからこそ、
おもしろい。
上に立つものが明確な戦略をしめし、強力な
指導力を発揮せぬかぎり、いかなる大要塞も
物の役に立たない。ケンカするなら、大将
自身が迷いを断ち切り、腹を据えることだな。
古代以来、奥羽は大和朝廷の支配を受け、上方
の政権に搾取されてきた。それを打破したのが、
平泉に黄金文化を花ひらかせた奥州藤原氏で
あった。奥州藤原氏は三代で滅んだが、そ
の独立王国の記憶は、北の大地に生きる
者たちの魂に、輝かしく刻まれている。
政宗は繊細にして、大胆である。あれこれ思い
悩むが、いったん気持ちを決めると、
誰よりも大胆になれる。
豊臣秀吉は、人間というものを知っている。
その怖さも、愚かさも知り抜いた上で、人
の心をたくみにあやつり、乱世の生き残
り戦を勝ち抜いてきたのだろう。その
ような相手に、小手先の策など通用
せぬ。政宗は、大局観に立った、
「政治」というものの重要性を痛感した。
伊達家の蔵方は、鈴木元信だ。元信は異能の
男である。米沢の商家の息子であった。鈴木
家は代々、米沢北方の金山を経営しており、
そこからの上がりを元手に土倉、酒屋を
いとなみ、羽州随一といわれるほどの
財をなした。
元信は天下の経営に参画したいと大望を抱い
た。素養を積むため、京へ上り茶の湯、小鼓、
謡曲、漢学、兵学などを学び米沢に戻った。
元信に会った政宗は、その諸方面にわたる教養
と、経済の知識に驚いた。元信のほうも、天下
への野心を燃やす政宗の行動力、器量の大き
さに惚れ込み、以来、伊達家の財務一切を
取り仕切って、政宗を側面からささえる
ようになった。
火坂 雅志 (著)『臥竜の天・伊達政宗』
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