その判断は.経営者が嗅ぎ取る「匂い」ともいうべき直感だった = 2-2 = 第 529号

 パタゴニアの副社長にこう切り出した。

 「クリス、パタゴニアの日本での販売は自分達で

やってくれないか?今のモンベルは、日本の

商慣習に縛られて、直接ユーザーに

品物を提供することは難しい。

 しかし、アメリカ企業のパタゴニアは、日本の商慣習に

とらわれることなく、直営店を開設して直接ユーザー

に商品を提供すべきだと私は思う」

 これは率直な私の願望でもあった。

 私の思いを説明すると、副社長は理解してくれた。

 その後、私はパタゴニアの日本事務所の開設や、

日本人スタッフの面接まで手伝って、日本

国内のビジネスのすべてを彼らに引き渡した。

 双方、何の遺恨も無い、「さわやかな別れ」

だった。

 会社経営も登山に酷似しているように私には思える。

 両社の最も大きな共通点は、「リスク

マネジメント」の重要性だろう。

 常に最悪の状況を想定したうえで、

準備して、行動する。

 無論、自らが立てた目標に向かって、自分の意思で

活動する点においても、その原動力となる

熱意は同様に求められる。

 会社経営もよく似ている。

 とりわけ創業者にはカリスマ的な

リーダーシップが求められる。

 前例のないさまざまな問題を手際よく解決

しながら、進むべき道を選択して行動

し続けなければならない。

 そうした創業者としての素養を、私の場合、

アルパインスタイルの登山経験を通じて

培うことができたのかもしれない。

 社員の能力が経営者の能力。

 これまで下してきた「決断」は、まさに

社員の行動に支えられてきた。

「起業」に始まり、「海外進出」「パタゴニアとの決別」

「直営店開業」「価格リストラ」「モンベルクラブの発足」

「アウトドア義援隊」そして「岳人の発行」。

 そのときどき、ともに頑張ってくれた仲間達がいた。

 モンベルの基本理念は、「何事も自分たちの

手で取り組む」ということだ。

 創業3年目に西ドイツへの海外輸出が決まったときも、

営業担当だった工藤が近畿通産局に何度も足を

運んで、貿易実務を一から勉強して、

自力で輸出手続きを完了させた。

 「どんなプロも、最初の1日目がある。

 そして今日がその一歩なのだ」これが

モンベルのモットーである。

 ネット通販をはじめるときも、創業間もなかった

楽天の三木谷社長から、「楽天のシステムを

使わないか?」と誘いを受けたが、私は

独自のシステム開発を選んだ。

 無論、私にコンピュータやネットの知識が

あったわけではない。

 それでも社内で努力して、そのノウハウを構築

しなければならないという確信があった。

 その判断は、経営者が嗅ぎ取る「匂い」とも

いうべき直感だった。

 イベントも、すべて社員の創意工夫と

チームワークで実施してきた。

 イベントを開催するにあたって、必要となるであろう

保険代理業や旅行業の資格を、経験の無い一人の

女性社員が独学で取得した。

 こうした一つ一つの積み重ねを通じて彼らは達成感

ともに自身を身につけていき、私にとっては最強と

誇れるプロ集団ができあがっていったのだ。

  期待する働きができない社員には、ただただ時間を

かけて教えるか、その人の特性にあった

仕事を見つけ出すしかない。

 日本のような小さな島国にあっては、互いが補い合い、

助け合い、支えあうことでしか、命をつなぐことが

できない社会的弱者には逃げ場がない。

 突然変異のような冒険心を持った人間を神様が作

られて、彼らが人間の限界を切り拓いてきた。

 そしてその行為は、自然を舞台にした冒険に

かぎらず、あらゆる分野で実践されてきた。

(あるアメリカ人の言葉)

 起業家もまた、冒険家と共通する精神性を

持ち合わせている。

 ゼロから事業を築き上げる作業は、まるで前人未到

の岩壁に挑む冒険家のそれに似ている。

 計画を立て、最悪の事態を想定しながら、

なすべきことを粛々と実行していく。

 槇英雄さんは、「社長の仕事は、会社の事業の

意味と目的を明確に社員に示すこと。

 それがあなたの最も大切な仕事なんだよ」

と教えてくださった。

 「では、何を目的にして会社を経営するのか?」

自問自答を重ねた私は、次のような

答えに思い至った。

 「描くべき目標は、事業の成功ではなく、

人生の成功なのだ」

 辰野勇

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 今回も最後までお読みくださり、ありがとう

             ございました。感謝!

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