ぼくのおかあさんになる準備をしてくれていたんだね = 2-1 = 第1,452号

『致知』の感動実話

「あずさからのメッセージ」

是松いづみ
(福岡市立百道浜小学校特別支援学級教諭)

『致知』2013年2月号 致知随想より

…………………………………………………

十数年前、障がいのある子がいじめに遭い、
多数の子から殴ったり蹴られたりして
亡くなるという痛ましい事件が起きました。

それを知った時、私は障がい児を持った親として、
また一人の教員として伝えていかなくては
ならないことがあると強く感じました。

そして平成十四年に、担任する小学五年生の学級で
初めて行ったのが
「あずさからのメッセージ」という授業です。

梓は私の第三子でダウン症児として生まれました。

梓が大きくなっていくまでの過程を
子供たちへの質問も交えながら話していったところ、
ぜひ自分たちにも見せてほしいと
保護者から授業参観の要望がありました。

以降、他の学級や学校などにもどんどん広まって
いき、現在までに福岡市内六十校以上で
出前授業や講演会をする機会をいただきました。

梓が生まれたのは平成八年のことです。
私たち夫婦はもともと障がい児施設で
ボランティアをしていたことから、

我が子がダウン症であるという現実も
割に早く受け止めることができました。

迷ったのは上の二人の子たちに
どう知らせるかということです。

私は梓と息子、娘と四人でお風呂に入りながら
「梓はダウン症で、これから先もずっと
自分の名前も書けないかもしれない」
と伝えました。

息子は黙って梓の顔を見つめていましたが、
しばらくしてこんなことを言いました。

さあ、なんと言ったでしょう?
という私の質問に、子供たちは
「僕が代わりに書いてあげる」
「私が教えてあげるから大丈夫」
と口々に答えます。

この問いかけによって、
一人ひとりの持つ優しさが
グッと引き出されるように感じます。

実際に息子が言ったのは次の言葉でした。

「こんなに可愛いっちゃもん。
いてくれるだけでいいやん。
 なんもできんでいい」。

この言葉を紹介した瞬間、
子供たちの障がいに対する認識が
少し変化するように思います。

自分が何かをしてあげなくちゃ、
と考えていたのが、
いやここにいてくれるだけでいいのだと
価値観が揺さぶられるのでしょう。

さて次は上の娘の話です。

彼女が

「将来はたくさんの子供が欲しい。
 もしかすると私も障がいのある子を
産むかもしれないね」

と言ってきたことがありました。

私は

「もしそうだとしたらどうする?」

と尋ねました。

ここで再び子供たちに質問です。

さて娘はなんと答えたでしょう?

「どうしよう……私に育てられるかなぁ。
お母さん助けてね」。

子供たちの不安はどれも深刻です。
しかし当の娘が言ったのは思いも掛けない
言葉でした。

「そうだとしたら面白いね。
 だっていろいろな子がいたほうが楽しいから」。

子供たちは一瞬「えっ?」と
息を呑むような表情を見せます。

そうか、障がい児って面白いんだ――。

いままでマイナスにばかり捉えていたものを
プラスの存在として見られるようになるのです。

逆に私自身が子供たちから教わることも
たくさんあります。

 今回も最後までお読みくださり、

       ありがとうございました。感謝!

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