35歳にして初めて経営の神様・松下幸之助と
言葉を交わす機会があったと田口佳史さん。
すかさず、「経営者の条件は何ですか」
と尋ねたところ、即答していただいたとか。
どんな答えだったのでしょうか。
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西田 文郎(サンリ会長)
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田口 佳史(東洋思想研究家)
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【田口】
今回の運と徳というテーマに関して、
私に教えを授けてくれたのが松下幸之助なんです。
ある時、PHP研究所の岩井虔さんから、
「商道コースという研修の講師になりませんか」
と言っていただいたんですね。
ちょうど仕事があまり来ない苦難の最中だったので、
すぐに飛びついた。それで打ち合わせの時に、
「ところで、前の講師はどなたですか」と聞いたら、
「松下幸之助です」と。
それは荷が重いなと思って一瞬怯んだんですけど、
「次は二十代か三十代の若い人に」という
松下幸之助の強い意向があったらしいんです。
そういうご縁があって、
35歳で初めて経営の神様にお目にかかった時に、
「経営者の条件とは何ですか」って聞いたら、
真っ先に「運が強いことや」と。矢継ぎ早に、
「運を強くするにはどうしたらいいですか」
と聞いたわけです。
そうしたら、「徳を積むことしかない」と。
これが運と徳の関係に触れた最初でした。
【西田】
松下幸之助の薫陶を受けられたこと自体が、
田口先生の運の強さの表れですよ。
【田口】
また、徳についてはこうもおっしゃっていましたね。
「徳というのはAさんに掛けて、
Aさんから返ってきたことは一回もない。
だからと言って、Aさんに徳を
掛けなくていいかというとそうではない。
どこから返ってくるか分からないから、
会う人それぞれに徳を掛けなきゃいけない」。
じゃあ徳って何かということですが、
私なりに東洋思想を学んで規定したのは、
自己の最善を他者に尽くし切ることです。
先ほど述べた道元のように、
丁寧に心を込めて一人ひとりに接していけば、
ありがとうと感謝され、自分が病に臥せたり
仕事がうまくいかずに腐っていたりする時に、
見返りなく手を差し伸べてくれる。
そういう感謝の人間関係で結ばれた人が周囲に何人いますかと。
『論語』に「徳は孤ならず、必ず隣有り」とありますけど、
やっぱり人間は一人では生きていけない。
他者の応援が必要です。
それには徳を掛けることが不可欠なんです。
『致知』2019年4月号【最新号】
特集「運と徳」P24
今回も最後までお読みくださり、
ありがとうございました。感謝!