ナイル自身の自然の力によって堤防が完成したのであった 第 2,267 号

 微笑むモナ・リザの背景に流れる川はどこに

向かうのか。地形・気象と関わる社会インフ

ラに目を潜めつつ、興味深い謎を解き明か

していく。張出しテラスという遊び心は、

フーバーダムの価値を間違いなく高めている。

 この遊び心によって、文明の下部構造のフー

バーダムは、全米の人々から愛される国家

的遺産となった。今も、フーバーダム

に訪れる観光客は途切れることはない。

 何時の世も、後世に残る文化を創ってきた

のは、「遊ぶヒトたち」であった。

 公共事業に携わる関係者が、心の余裕を持って

遊び心を発揮できるか。遊び心から生まれる

文化という価値を公共構造物に付加でき

るか。公共事業が一般国民から支持さ

れるかどうかは、こんなところにかかっている。

 エジプト第三王朝から約1000年間、複数の

世代にわたったエジプト人たちが知恵と肉体

を注いだピラミッド。それが無意味な公共

事業だったなどとは考えられない。

 私は考古学やピラミッドの専門家ではない。

しかし、人間について多少は知っている。

 断言してもよいが、人間は無駄とわかっている

ことを、1000年間も継続することはできない。

どれほどの絶対権力を持つ王朝も、1000年

を通じ膨大な人民に命令を下し、無駄な

工事を継続させることなど決してできない。

 ピラミッドを建設した古代エジプト王朝と

従事したエジプト人たちの名誉にかけて、

私は断言する。「ピラミッドは無駄な

公共工事などではない。エジプト文

明の存亡を賭けた重要な事業であり、エジプト

人たちが自らの誇りを持って従事した

意味のある事業であった」

 それではいったい、ピラミッドの目的は何か。

この謎を解く鍵は、「発見されている80基の

ピラミッドは、すべてナイル川の西岸に

位置している」という事実に潜んでいる。

 私は「ピラミッドは、大きな『からみ』

であった」と表現する。

 ナイルの洪水は恐ろしい自然ではなく、

豊かな恵みを運んでくる自然であった。

 エジプトにとってナイルは命である。いや

ナイルそのものがエジプトである。そのた

め、ナイルを西の砂漠へ逃がさないと

いう課題は、エジプト文明の存亡

そのものがかかっていた。

 ピラミッドは、治水事業なり。ナイルが砂漠

地帯へ氾濫拡散するのを防止するにはどう

するか。答えは明白である。ナイル西岸

に堤防を造ればよい。堤防があれば

ナイルの流路は安定して流れ下が

っていく。ただ、ナイルは

1000キロに及ぶ長大な川である。

 古代エジプト人たちの頭脳は、桁外れに優れて

いた。エジプト人は「自然の力」を利用する

工法を知っていた。それは、ナイルの洪水

が運んでくる土砂を利用する、

「からみ工法」である。

 つまり、西岸に連続堤防をわざわざつくらず

とも、洪水が運んでくる土砂を西岸に堆積さ

せればよい。その堆積土砂がマウンドと

なり、そのマウンドが連続すれば

堤防となるはずだ。

 これらのピラミッドは計画通りの役目を果た

した。後年発見されたすべてのピラミッド

は砂に埋まり、堆積土砂は見事に連続

した堤防を形成していた。ナイル

自身の自然の力によって堤防

が完成したのであった。

 エジプトに、「ナイルの水を制する者は、

エジプトを制する」という諺がある。古

代エジプト人たちは、文明の存亡を

かけてピラミッドを建設した。

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 今回も最後までお読みくださり、

   ありがとうございました。感謝!

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