“国民教育の師父”と謳われた
森信三先生による不朽の名著
『幻の講話』。
森先生が70代で執筆されたもので、
生徒を対象に講話(授業)を進めていく
形式で、年代別に各30篇、全150講話が
収録されています。
『修身教授録』と並ぶ代表的著作といわれ、
青少年への講話集でありながら、
その内容は年代を問わず、
「人間、いかに生きるべきか」の
指針となるものばかり。
そのページ数は、
実に1,320ページにも及びます。
本書刊行に至るまでには、幾多の困難が
ありました。
昭和44年夏、先生は下稿の前半部を
一気呵成に書き上げるも、
その後、ご夫人の病死、
ご長男の事業の蹉跌・急逝……など、
苦難や試練に次々と見舞われ、
幾度も中断を余儀なくされます。
完結までに足かけ5年の歳月を費やした
本書は、森先生自らが「宿命の書」と
名付けたほど、特別な思いを寄せられる作品。
その晩年に渾身の力を込めて
青少年に訴えようとされた
人生の根本問題とは何か──。
そのメッセージは時代を越え、
あらゆる人々の胸に響き渡ります。
その内容の一部をご紹介しましょう。
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時の物さしをもつ生き方
(『幻の講話』第4巻より)
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最後にもう一度念のために、
われわれが一応実践的計画的な
立場に立って考える時、
重要な意味を持ってくる「時」の節ともいうべき
ものについて考えて見ましょう。
それについて、
最初の最も短い「時」の目安は3日であって、
その次は一週間というものでしょう。
そして次はヤハリひと月というもので、
つぎは3ヶ月というわけです。
そしてその次は半年であり、
そして一おう一年というのが、
大きな〆括りになるといってよいでしょう。
ところで、一年の次はとなると、
ヤハリ3年でありまして、
古来「石の上にも三年」と
いわれるのもこの故です。
そしてその次はとなると、
ヤハリ5年というものでしょう。
そして5年の次はヤハリ10年でしょうが、
人と仕事によっては、
その間に7年または8年という
飛び石を置いて考える場合もありましょう。
しかし結局は10年というのが、
われわれの計画的実践の立場から考えた場合、
一おう最大の見通しといってよいかと思われます。
そして人生の「達人」といわれる様な人はもとより、
たとえそこまでは行かなくても、
いっかどの人物といわれるような人でしたら、
必ずやそこには、上に申したような、
一種の見えない「時」の物さしに照らして、
自分のあゆみを考えながら、
一歩一歩真摯に人生と取り組んでいる人と
申してよいでしょう。
第4巻「人生への通観」より
今回も最後までお読みくださり、
ありがとうございました。感謝!