世界のお役に立ちたい不条理や悲しみから一人でも多くの人を解放したい = 2-2 = 第 397号

 私がある調停に向け、オフィスから出発する

時のこと。

 出発直前まで、私はいつものようにニコニコ

しながら、軽口をたたいていた。

 オフィスにいる時、特に深刻な案件を抱えて

いる時には周囲にそれを気遣わせないよう、

極力明るく振る舞っていた。

 時間がきて、私がオフィスのドアを開けて出て

行ったまさにその時、ある女性スタッフが、

「クニは気楽でいいよね。いつも

冗談ばかり言って」と言ったそうだ。

 たまたまオフィスにいたセルジオがそれを耳に

し、彼女に対して「お前はわかっていない」

と強く叱責したらしいです。

 セルジオは、こう叱ったそうだ。

「あいつがなぜ、いつでもニコニコしているか

知っているか。

 そうでもしてないとやっていられないような、

極めて深刻な事態にぶち当たっているからだ。

 あいつはあの両肩に、何百万という人の

命を背負っているんだ。

 そんなことも分からないのか。

 あいつがクルッと君に背中を向けて歩き出した

瞬間、その顔から笑みが消えているはずだ。

 目つきも変わっているはずだ。

 覚えておきなさい、

あの背中は死地に赴く男の背中だ。

 今、その目にあいつの姿をよく焼き付けて

おきなさい、もしかすると2度と見る

事が出来ないかも知れないのだから」

 私の交渉・調停スタイルでまず特徴的なのは、

「ひたすら相手の話を聞く」ということだ。

 現地人が話すように話す。

 わたしが実践している言語習得法は、現地の

飲み屋やバーに行くことだ。

 そこで一般の人々が交わす会話に耳を澄ま

して、どういう言葉でしゃべっている

かをじっと聴き取る。

 それをリサーチして、交渉や調停に

役立ている。

 最終の地図は自分達で描かせる。

 紛争調停の最終局面で、最初にその地域

の白地図を出す。

 そこにはどんな境界線も引かれていない。

 私の頭のなかには、その地域の地勢や資源

などは全部入っている。

 そして、私は適当に線を引き、それを元に、

当事者同士に線を引かせ、議論させる。

 「デメロ・マフィア」の一員となってから、

私の国連での仕事はほとんどが軍事安全

保障問題に関わるものとなった。

 そのおかげで、そこそこ長持ちする停戦合意案

も作れるようになった。

 「最後の調停官」と認めてくれる

人たちも現れた。

 2003年、イラク戦争の戦後復興のため、

セルジオ・デメロが国連の事務総長特別

代表として、イラクに赴任した。

 だが、バグダッドの国連本部で自爆テロが

起き、彼は帰らぬ人となった。

 交渉はフットワークの軽さが命。

 交渉は会議室の中だけで行われている

わけではない、ということも

あえて言っておきたい。

 国際交渉の場では、情報を制する者が

交渉を制する。

 また情報を持っていることで、多種多様な問い

合わせや急な要望にも、迅速かつ的確に

応えることができるので、交渉官

自身に対しての周りからの信頼もあがる。

 広く情報を集め、また顔と名前を覚えてもらう

ためには、とにかくチャンスを見つけては

外へ出ていくこと。

 複数の利害が複雑に絡み合う国際交渉の場に

おいては、自分側のメンバーで内輪の議論を

しているだけでは、交渉は進まない。

 各国交渉官たちとの「飲みニケーション」は、

重要なインテリジェンス活動の一部だ。

 他国の交渉官とご飯を食べに行くとか、ちょっと

バーに行って一杯か2杯お酒を飲む。

 ビールやワインを飲みながらの交渉は、国際交渉

の現場では少しも珍しいことではない。

 日本でいうところの「飲みニケーション」は、

国際的にも存在するのだ。

 じつは私が一番得意としていることも、この飲み

ニケーションを用いた情報収集と交渉だ。

 楽しく飲んで、お互い打ち解けてきた頃合いを

見計らって、ポケットから「これなんだけど」

と紙を出す。

 その場にいるみんなでその紙を囲んで、あれ

これ議論し、内容をその場で書き込んでいく。

 そういう場では、たいがい誰かがPCか

タブレットを持っている。

 議論の内容はその場で打ち込んでもらい、

居合わせた人々にメールで送ってもらう。

 そして、各交渉官はその内容を、自国の

交渉団メンバーにも回して共有する。

 国際交渉の場では、このような流れで、

会議のゆくえを左右するような重要な

事柄が決まることがしばしばある。

 いわば、翌日からの公式の交渉の展開が、

前夜の「外」の場で、各国の顔役に

よって決められているわけだ。

 ところが私の知る限り、そういう場に

日本人はほとんど参加していない。

 なにをしているかというと、作業室に

こもって、粛々と完成度の高い報告書

作りにいそしんでいる。

 その間に、外では重要事項が

決まりつつある。

 翌日、議場で、「あれ?昨日まで誰も言って

いなかったことが急に始まっている。

どうしよう・・・」とあわて

ふためく羽目に陥る。

 日本の緻密な作業や検討能力、そして提案作成

のクオリティは間違いなく世界のトップレベル

なのだから、そこに「外回り」の力、突き

詰めれば「アイデアを提案に反映する

力」がつけば、鬼に金棒となるのだ。

 私が仲間とともに「見えない外交」を実践する

にあたり、心の糧にしている言葉を紹介したい。

「ひとが何事言おうとも、神が見ている気を鎮め」

→いろいろなケースの調停を手がけてきた。

 しかし、そのほとんどは、公に知られることは

ないし、ましてやそれらを担当したのが私で

あることを知られることもない。

 だが、「少しでも誰かの、世界のお役に立ちたい」

「不条理や悲しみから一人でも多くの人を解放したい」

という心で一生懸命その目的のために頑張り続けて

いれば、たとえ人の目に触れることはなくても、

時にいわれのない批判にさらされることになっても、

私がやってきたことの真実は、きっと神様が見て

いてくれると信じている。

 その気持ちで、これからも私は、仲間たちと

共に歩んでいこうと思う。

  島田久仁彦

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 今回も最後までお読みくださり、ありがとう

            ございました。 感謝!

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