「感動、喜び、イキイキワクワクすることが、
よい遺伝子のスイッチをオンにし、
悲しみや苦しみ、悩みが
悪い遺伝子のスイッチをオンにする」
遺伝子工学の第一人者・村上和雄さんは、
その主張を実証する上で、アメリカ発祥の
ポジティブ心理学に注目します。
ポジティブ心理学とはどのようなものなのか。
『致知』4月号の村上さんの連載の一部を
紹介します。
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(村上)
私は40年に及ぶ研究生活で、「思いが遺伝子の
働きをオン/オフにする」と確信するようになり、
1997年に出版した『生命の暗号』でもそのこと
に触れました。
すると、「すべては遺伝子レベルで決められて
いる」と思い込んで、憂鬱になっていた人たち
から、「遺伝子にオン/オフがあると知って
気が楽になりました」と、思いがけず大きな
反響をいただきました。
私はその2年後に筑波大学を退官しましたが、
多くの一般の人たちが遺伝子に興味を持って
いることを知って、この方面の研究を続ける
決意をし、次のような仮説を立てました。
「感動、喜び、イキイキワクワクすることが、
よい遺伝子のスイッチをオンにし、悲しみや
苦しみ、悩みが悪い遺伝子のスイッチを
オンにする」
私は、この仮説を証明するため、「心と遣伝子
研究会」を立ち上げました。
ちょうど時を同じくして、アメリカでは
ポジティブ心理学が幕を開けました。
ポジティブ心理学は、1998年にペンシルベニア
大学のマーティン・セリグマンが、米国心理
学会会長に選任された際に創設されました。
出身の哲学から心理学に転じたセリグマンは、
「人間が人間らしく幸せに生きるにはどうした
らよいか」を研究の対象にしていました。
そして、ネガティブに陥った状態からいかに回復
できるかに焦点を絞り、長年うつ病や学習性理論
の心理学研究の第一線で活躍していました。
(中略)
20世紀の心理学は、フロイトの理論が心理学や
精神医学に深く浸透しているとセリグマンは
述べています。
フロイトは、人間は様々なネガティブ感情を
持っていて、その感情を抑えようと葛藤する
エネルギーが行動と結びついていると主張
しました。
それゆえに診療の場では、症状の原因を特定
するために、患者の過去や幼児期の出来事が
徹底的に洗い出され、それを克服するような
治療方針をとることになるのです。
セリグマンはそこに疑問を抱きました。人間は
善悪双方の特徴を受け入れて進化してきており、
その二面性を捉えることこそが大切であると
考えたのです。そして、「ただ苦悩を和らげる
だけでは、苦しみ、不幸になっている人びとを
救うことはできない。本当に必要なのは、その
人の幸せを理解し、築き上げることである」と
いう考えに至ったのです。
最高のセラピストとは、ダメージを癒やすだけ
ではなく、患者のポジティブな特性を見つけ
出し、築き上げる手助けができる人だと。
そして、誰もが元来もっている特別な能力を
自覚し磨き上げ、それらを日々の仕事や営みに
役立てて初めて、本物の幸せを手に入れること
ができるのだと考えたのです。
セリグマンは、人間の心はいつでも変えられる。
人々の願いを叶えるもの、それが「ポジティブ
心理学」であると述べています。
★村上和雄さんは「生命科学研究者からの
メッセージ」と題して『致知』に
毎号連載されています。
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今回も最後までお読みくださり、
ありがとうございました。感謝!