シカゴの黒人貧民街に焦点を当て、1990年代
半ばから2003年まで調査研究したレポート。
公的資金や行政支援の届かない地域(イン
ナー・シティ)では、ほとんどの住民が
地下経済に関係している。
ギャング、売春婦、非合法の会計士、占い師、
強盗、車泥棒、画家、ミュージシャン、銃の
売人などが織り成す「ネットワーク」経済。
その姿をインタビューを駆使して
明らかにしていく。
この社会では、聖職者も警察官も売春婦も
「仲間」であり、お互いがお互いを必要と
し、ときに裏切り、ときに協力し合う。
ヴェンカテッシュは彼らの中に自然とおさ
まり、各種の相談事を受ける。
それは、犯罪者、売春婦とも共感できる
感性をもった研究者だから。
豊かではあるが、人間のつながりを欠いた
冷たい社会とは好対照な、アメリカの
活気に満ちた熱い社会。
やわな「格差論」を吹き飛ばす
迫力をもったルポだ。
シカゴ大学の大学院だった1990年代前半、
私は博士論文を書くためにシカゴ市の
サウスサイド地区の貧困者用公営
団地に住む家族をしばらく取材した。
若い人、とくに社会からはじき出された
若者たちに私の目はとまった。
なかでも気になったのは、マーキーパーク
のストリートギャングの経済活動である。
彼らは日がな一日たむろして過ごしている。
そこで私も彼らと一緒に行動するときは、
車の中や路地や商店街に何時間も座って
おしゃべりに耳を傾けた。
通行人の噂話を聞いて、彼らが何を
考えているのかを推し量った。
うろついているうちに、闇商売で金を稼い
でいる人々と知り合い、毎週足を向ける
ところがいくつかできた。
まもなく私は気づいた。
このコミュニティは、若者から年寄り、
専門職を持つ者から困窮者まで、雑多
な男女が集まっているようだったが、
じつはほぼ全員がこの地区をすっ
ぽりと覆う目に見えない巨大な
ネットワークで結ばれている。
地下経済のネットワークである。
それを通じて、町医者は往診した家庭で
診察代がわりに料理をふるまわれる。
売春婦は食料雑貨店の店主にサービス
し、ただで食料品を手に入れる。
店主がホームレスを店に泊まらせる
のは、警備員を雇うと金がかかり
すぎるからでもある。
ここでは、誰もがなんらかの形で
地下経済に関わって暮らしていた。
闇商売をする人々と知り合ったことで、
マーキーパークにくるまで全く知ら
なかった社会が理解できるよう
になり、私は幸運だった。
ゲットーの外に住むアメリカ国民は、
税務署に収入を申告しそびれたの
ではない限り、地下経済の存在
に気づいてさえいない。
だがインナーシティでは、そのような裏
社会が住民を、家庭を、商店を、そして
政治家や警察までもを密接に
結びつけている。
緻密で複雑な、驚くべきネットワークが
できあがっているのである。
このネットワークは絶え間ない交渉と
共謀と折衝の産物であり、生きるため、
すなわち人生の目的を見つけるため、
みずからの欲望を満たすため、家
族を養うための、終わりの
ない闘いの産物だ。
桃井緑美子『アメリカの地下経済』
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今回も最後までお読みくださり、
ありがとうございました。感謝!