情報の主戦場がサイバースペースに移りつつある
今こそ、検索で見つけた無味乾燥な情報ではなく、
自らの足で、時間をかけて集めたインテリジェンス
が何ものにも代えがたい、唯一無二な価値を持つ。
人間味あふれるスパイたちが繰り広げるドラマ
チックなストーリーは、同時に、今の時代を生き
抜くために欠かせない、インテリジェンスセンス
を磨く最高のテキストなのだ。
あまりに精緻に近未来を言い当てた情報(インテリ
ジェンス)は、打ち捨てられ、無視される。
これがインテリジェンスの哀しい性なのだ。
溢れんばかりの人間的魅力で敵側からも
信頼された者が手に入れる情報。
それは凡庸な人々の烈しい嫉妬を買ってしまう。
これもまた情報が持つ宿命なのである。
肝心の情報戦士が情報源に深く食い込んで、持ち
帰るヒューミントが希薄になるつつある。
たとえ情報戦の主戦場がサイバースペースに移ろう
とも、最後の勝負は、相手の懐深く飛び込んで
信頼を勝ち得て、価値ある情報を入手でき
るか否かにかかっている。
人間力を駆使して持ち帰る情報こそ、
ダイヤモンドのような輝きを放つ。
インテリジェンスとは、膨大な数のピースを
気の遠くなるような忍耐力によってあるべき
場所に配し、錯綜した事態から本質を
あぶりだす業である。
ノモンハンの戦い前後の日本統帥部には
こうしたインテリジェンス感覚が
すっぽりと欠けていた。
一国の指導者が国家の命運をかけて下す決断の
成否は、膨大な情報から選り抜かれたインテリ
ジェンスの質に拠っている。
「情報源に決して惚れ込んではならない」諜報界に
永く言い伝えられる箴言である。
英国の諜報界の際立った特徴は、この組織から
数多くの物語作家を輩出したことにある。
物語に託して秘密の世界を語りたい。
厳格を極める日々の守秘義務が彼らをそうした
衝動に駆りたてたのかもしれない。
老情報大国が擁していた人材で、後に作家と
なったのは、ル・カレやフレミングにとど
まらず、グリアム・グリーン、サマセット・モーム、
それにフレデリック・フォーサスと絢爛にして豪華だ。
イギリスの諜報界は、これらの作家を通じて、国家
機密を巧みに覆い隠しながら、インテリジェンス
が秘めている本質を人々に知らしめてきた。
イギリス国民が情報活動に理解を示し、インテリ
ジェンス感覚が磨かれているのは、かつて諜報界
に身を置いていた作家の一群によるところが
大きい。
手嶋龍一
『汝の名はスパイ、裏切者、あるいは詐欺師』
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ございました。感謝!