2022年2月に始まった一方的な侵攻は、ロシア
の問題であるとともに欧州全体の問題として
捉える必要がある。欧州は結束して武器や
弾薬の供与に踏み切り、エネルギー危機
は欧州全域を巻き込んだ。欧州の安全
保障を専門とする著者がこの「大
転換」の背景を分析し、「ウク
ライナ後の世界」の課題と
日本の採るべき道を探る。
欧州で発生してしまったこの戦争にNATOや
EUを含む欧州がいかに関与し、どのような
影響を受けてきたかを、政治・外交面に
着目して論じたい。
米欧の同盟であるNATOの関与が深まると
ともに、欧州全域への影響が大きくなった
ことから今回の戦争は『欧州戦争』と
呼ぶべきものへと変容した。
欧州からみたロシアは、異質だし辺境である。
しかしそのうえで、歴史的にも文明的にも文
化的にも、欧州の一部だった。端的にいっ
て、『くるみ割り人形』のないクリス
マスは寂しすぎるのである。
今回の『併合』なるものの最も深刻な影響は、
ロシア・ウクライナ戦争の正式な和平合意が
成立する可能性がほとんどなくなったことだ。
ロシア国内では正式の手続きを経て承認され、
それら地域は憲法上、ロシア連邦の一部と
いう話になった。『併合』なるものの
決定を覆すことは、ロシアにおいて
は難易度が極めて高い。
この戦争は特徴的なはじまり方をした。前年
秋からロシア軍部隊がウクライナ国境に集結
しはじめ、緊張が高まっていた。
ロシア側は、ウクライナ侵攻の意図はないと
しつつ、いつでも実際に侵攻可能な装備を
着々と前線に配備していった。
その数は10万名をはるかに超えた。
状況を注意深く監視していた米国は、ロシア
に侵攻の意思があると判断し、ロシアに警告
しつつ欧州諸国への情報共有を進め、さら
には、ロシアの侵攻意図やその方法を
「暴露」する手段に出たのである。
オープン・ソース・インテリジェンス
(OSINT)と呼ばれる分野の
新たな発展が重要だった。
OSINT自体は決して新しい手法ではない。
機密情報ではなく、公開されている情報をつ
なぎあわせて真実を突き止めようとする
ことを指すが、SNSによる情報を網
羅的に扱うことで、従来とは桁違い
の情報量を実現し、精度の高い
分析が可能になった。
例えば指導者の演説についても、引用すべき
箇所は関心や目的によって異なって当然で
ある。そうである以上、自ら原典にあた
ることが重要である。記者による切り
取りからみえるものと、自ら原典を
みたときに広がる世界の間には
大きなギャップがある。
今回の戦争におけるウクライナ人による
ロシアへの抵抗は、人間が命をかけて
でも守りたいものは何かという、
戦後の日本人がほとんど問わ
れることのなかった問題を投げかけている。
ロシアによるクリミアの違法且つ一方的な
併合、およびドンバス地域への介入とそれ
に伴う激しい戦闘によって多くの犠牲者
が発生したことは、結果として、多く
のウクライナ人を反ロシア的にした。
以上に、今回の戦争を理解するには欧州の
理解が不可欠であること、そして、今回の
戦争によって欧州が大きな転換点を迎え
つつあり、そのことが今後の国際関係
全般にも無視できない影響を及ぼす
と考えているからである。それは、
今回の戦争を「欧州戦争」として捉える見方である。
鶴岡 路人 (著)『欧州戦争としての
ウクライナ侵攻』
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今回も最後までお読みくださり、
ありがとうございました。感謝!