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1 いつも全力で一所懸命
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三宅 由佳莉(海上自衛隊
東京音楽隊三等海曹)
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自衛隊の歴史の中で、初めての
歌手となった三宅さん。
いまでこそ「自衛隊の歌姫」として
脚光を浴びていますが、そこに至
る道のりは決して簡単なもの
ではありませんでした。
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──厳しい教育訓練を終えて初めて、
任務に就けるのですね。
はい。でも、配属当初の私は本当に
使い物にならず、隊員の一員とし
て何も役に立てていない自分
が悔しくて、3年ほどは
歯がゆさを感じ続けていました。
──なぜですか?
大学ではクラシックを習っていたん
ですけど、音楽隊ではクラシック
だけでなく、オペラや演歌、
J-POP、アニメソン
グなど幅広いジャンルの
曲を歌っていく必要があり、各曲に
相応しい歌い方をマスターでき
ず悶々としていました。
喉や体の使い方が異なるので、ポップな
歌い方を練習していても、本番になる
と元のクラシック調の歌い方に
戻ってしまうなど、何度も
失敗を重ね、その度に
自分の無能さを思い知りました。
──それをどう乗り越えましたか。
ありがたいことに、音楽隊の先輩方が
皆、私の歌う姿勢やマイクの使い方
など細かい点まで真剣に指導
してくれました。
そのため、それまでのプライドは捨て
ゼロからやり直そうと思い、周りの
人の意見を愚直に取り入れました。
でも、「自衛隊の歌姫」としての前例
がないため、初めの頃は歌う機会自体
も少なく、同期の奏者が様々な場
に参加している間も、私は電話
番や事務仕事をしていること
が多くて、「きょう一日
何をやったんだろう」と虚無感が
押し寄せてくる日も多々ありました。
やっと演奏会に参加できても、私に与え
られたのは一曲だけだったこともあります。
その悔しい経験があったから、僅か5分
の一曲、一瞬一瞬を大事に、常に全力で
思いを込めて歌うようになりました。
──一曲一曲、常に全力投球。
スポーツ選手など、一瞬で勝負が決まる
世界で活躍する方と共通するかもしれ
ませんが、本番の一瞬を最高の出来
に仕上げるのって本当に難しいんです。
体調や感情のコントロールなどを常に気
をつけているんですけど、その分、人
一倍あがり症で、恥や失敗もたく
さん経験してきました。
でも、中途半端が一番嫌なので、
いつも全力で一所懸命。
いまはありがたいことに歌う機会が多く
なりましたが、どんな曲でも手を抜けない。
よく隊長から「もう少し力を抜け」
と指導されています(笑)。
『致知』2018年11月号【最新号】
連載「第一線で活躍する女性」P76
今回も最後までお読みくださり、
ありがとうございました。感謝!