創業以来、実に200年以上の歴史を
持つうなぎ屋「野田岩」。
その5代目を務めるのが御年90の
金本兼次郎さんです。
弟子を育てる傍ら、自らもうなぎ職人と
して常に格闘を続ける金本さんの気迫
漲るインタビューをご紹介します。
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金本 兼次郎(野田岩五代目)
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【金本】
少し前の話ですけど、入ってきてから
もうすぐ6か月が経つというのに、
一向にうなぎがうまく裂けな
くて全くお手上げの子がいましてね。
もうどうすればいいか、
僕にも分からない。
ところがある朝、いつものように包丁
を持って、「いいか、こうやるんだ
ぞ」ってやってみせたら、パッと
できるようになった。勘を覚えたんです。
──それは一瞬ですか。
一瞬。それには僕も驚いた。「おい、
おまえ裂けんじゃねえか」って言っ
たら、嬉しそうな顔をしてね(笑)。
それからはもう夢中になってやり始
めて、ものにしちゃったんです。
やっぱり人間っていうのは、頭がいい
悪いに関係なく、何かしらいい
ものを持ってますよ。
それを教えるほうの人間がどれだけ
引っ張り出せるか、出せないか、
そこなんですね。
とにかく教えるっていうのは闘いのよう
なもので、苦しくて、きついけど、何
かの拍子にぐんと成長していく姿
を見るのは嬉しいですね。
何が嬉しいって、これがいま、
一番嬉しいんじゃないかな。
──弟子たちの成長が、金本さん
ご自身の喜びであると。
ただ、僕だって教えている
ばかりじゃないですよ。
若い連中も朝早くからどんどん出て
くるから、僕は僕で早い時には3時
半に起き出してきて、「ようし、
連中が出てくる前に80本裂い
ちゃおう」って目標を立て
て、ガーッとやるわけです(笑)。
まだ誰もいない時は仕事も捗るから、時
には「今朝は百本裂いたから、もう上が
るぞ、俺は」って言いながらさっさ
と休憩に入っちゃう。
だから幾つになっても、格闘なんですよ。
「きょうは調子がいいぞ」「いつもより
ちょっと早く裂けた」とか、そういった
喜びっていうのは、仕事をしていれば
どこにでもあるわけです。
『致知』2018年6月号【最新号】
連載「生涯現役」P106
今回も最後までお読みくださり、
ありがとうございました。感謝