修業に耐え抜くとやさしさが生まれます = 2-1 = 第 2,607 号

 年齢も性格も学歴もまちまちの26人の若者が、

同じ釜の飯を食って宮大工をめざす。「ゆっ

くりでいい、よく見て憶えろ」。彼らを

束ねる小川三夫親方の型破り教育論。

 民家ではなく、寺社を中心に手がける宮大工

ですが、木を拵え、組み上げていく作業は、

ふつうの大工と同じです。

 大工の仕事は実作業です。言葉でも教科書

でも技を教えることはできません。現場

に一緒に立ち、見て、やってみて

覚えていくしかないのです。

 私たちの仕事は形として残ります。いいも

悪いも正直に形としてあらわれるのです。

これは恐ろしいことでもあります。

技や腕、考えや心構えがその

まま出るのです。ですから、

つねに全力を尽くすしかありません。

 10年というのは長い時間です。しかし、この

仕事は急ぎすぎてはいけません。一つ一つを

ゆっくり体や手にしみこませていかなく

てはならないのです。近道、早道は

何の役にも立ちません。

 人は学ぶときに素直なまっさらな心になら

なければ、前に進むことが難しいのです。

修業に耐え抜くと、やさしさが生まれ

ます。心のゆとりが出てきます。

これはみな長い時間の修業に

耐えてきたからだと思います。

 刃物を研ぐのは大切なことや。刃物研ぎ

は大工の基礎や。刃物が研げなければ、

道具は持たせてもらえないからな。

 不揃いのものを組み上げる。

 30歳前にどっぷり仕事に浸れ。

 何でも先を読むことが大切だ。それが段取り

だな。段取りとは、その仕事の雰囲気を読む、

どういうふうにしたらいいか、こういう

ふうにしていこう、こういう納めに

していこうって、一つひとつを

読み取れるようになることだ。

 そのためにはやはり、どっぷりと仕事に浸る

ことだよ。浸らなかったら先が読めない。

読めるようにもならん。それも若い

うちに浸らないと仕事を覚えない。その

どっぷり浸れることがなかなかできないんだ。

 職人であれば、若いときに弟子入りして、

体がまず先行してできて、後から頭が伴

ってくれば、これは理想的なんだ。

焦りも少ないんだ。いまの人

はみんな、頭から先にくるから、

体がついてこない。

 いまは頭の中ばっかり大事にしすぎだな。

知識偏重だ。もっと体のことも大事

に考えなあかんよ。

 不器用でもいい。不器用の一心というのが

ある。不器用でも、真面目だとか、正義感

があるとか、人には何か一つは取り柄が

あるからな。これは何かになるよ。

 ただ何かになるけれども、時間がかかるから

難しい。うちは時間が長くてゆっくりして

いる。それに耐えられれば、何とかな

る。一心不乱にやればいい。問題

はそれに耐えられるかだ。

 修業のときは弟子を褒めてもいいことなんて

ないよ。ちゃんとやって当然なんだ。よう

考えてごらんよ。その本人が真剣に仕事

をして、やって出来上がったことを

褒めてやるなんていうのは失礼だよ。

一所懸命にやったんだから褒める必要もない、

無視する必要もない、何もない、そのまんま。

小川 三夫  (著)『不揃いの木を組む』

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 今回も最後までお読みくださり、

      ありがとうございました。感謝!

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