近代日本を代表する知識人、文芸評論家であり、
いまなおその著作や教えが
多くの人々に影響を与え続けている小林秀雄氏。
その妹であり、劇作家として活躍した
高見澤潤子さんが、小林秀雄氏から
教わったことを、『致知』で
話してくださったことがあります。
本日は22年前の『致知』に
掲載された貴重な記事をご紹介します。
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兄・小林秀雄から学んだこと
高見澤潤子(劇作家)
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兄は理論よりも行動を重視した。
何かせずにはいられないという気持ちは、
愛情とか尊敬からおこるものである。
頭で考えているだけでは、
そういう気持ちにはなかなかなれない。
愛情をもって対象物を本当に理解しなければ、
実行することはできない。
知ることは行うことだ、と兄は言っていたし、
「実行という行為には、
いつでも理論より豊かな何かが含まれている。
現実を重んじる人というよりは、
現実性を敬う心がある」
というようなことも言っていた。
私たちはあまりにも観念的になり、
抽象的になり理論的になっている。
理屈ばかり言って、実行しない者は多い。
現実を大切にしないからである。
実行するのは難しいことなのだが、
具体的にものを言うよりも、
抽象的に言った方が深みがあるように
思っているからである。
しかし目の前に現れている現実、
具体のほうが大事なのである。
私が自分の結婚問題について、
手紙で兄に相談した時、兄は長い返事をくれた。
その中にこういう言葉があった。
「人間が人間の真のよさだとか悪さだとか
分かる迄までには大変な苦労が要るものだ。
人間を眺める時、その人間の頭にある思想を
決して見てはならぬ。
それは思想だ。人間じゃない。
その中によさも悪さもあるものでない。
大体、アリストテレスの言ったように、
人生の目的は決してある独立した
観念の裡にはないものだ。
人間の幸不幸を定める生活様式の裡に
あるのである、いい生活様式を得れば
人間はそれでいい」
兄は何も知らない私に人間の見方と、
人生の幸福というものを教えてくれた。
人間は頭より情緒、心の優しさが大切で、
人間をみるというのは、実生活の
具体的なものを、しっかりみることである。
『致知』2001年10月号より
致知出版社の人間力メルマガ
今回も最後までお読みくださり、
ありがとうございました。感謝!