法哲学者が「夜の街をめぐる旅」の記録と
記憶を綴るノンフィクション。ホメロス・
後鳥羽上皇からニーチェ・サンデルまで
を参照しながら、スナック・ラウンジ
・クラブ・バーなど「夜の公共圏」
としての水商売の社会的意義を
浮き彫りにする。
「日々、何の変哲もない営業を続ける自営業者
たちこそがデモクラシーの担い手である」
(著者)。
ウイルスと風説で汚された独立起業家・労働者
の誇りを取り戻し、自由とコミュニティ再生
への道を照らす一冊。
マイケル・サンデル教授の『実力も運のうち。
能力主義は正義か?』という本があった。
サンデルは、民主主義についての一節で、こう
言っている。「多様な職業や地位の市民が
共通の空間や公共の場で出会うことは
必要だ。なぜなら、それが互いに
ついて折り合いをつけ、差異を
受容することを学ぶ方法だからだ」
私がこのくだりを読んで思ったのは、「スナック
の話をしているのかな?」だった。
スナックのような「夜の街での社交」がない
アメリカ人には「誠にお気の毒様」としか
言いようがないのであるが。
藤野英人の『ヤンキーの虎。新・ジモト経済の
支配者たち』という本である。
このなかでは決してサンデルが描くような
高学歴層ではないが、地方に根を張った
ビジネスをリスクをとりながら多角的
に展開し成功している。
経営者たちを「ヤンキーの虎」と呼んで描き
出し、彼らのようなリスクテイカーこそが
地方経済を建て直す大きな可能性を秘め
ていると論じているのである。
実際、彼らは事業拡大のために積極的に金融
機関からの借入を行なって儲けを出し、地域
の自治体に多くの税金を納めている。
サンデルは「地の塩」として働く、ゴミ清掃員
をはじめ、とくにコロナ禍のもとでの「スーパ
ーマーケットの店員、配送員、在宅医療供給
業者、その他の必要不可欠だが給料は高く
ない労働者」がいかに重要かを認識すべきだと、
あたかも「労働英雄」を称賛するかのような
檄を飛ばすが、そこには高学歴で成功した
人びと「以外の労働」に関するいささか
貧弱な世界観が露呈しており、「ヤンキーの虎」
のような活力に満ちた存在への視点が欠落している
のではないかと思ってしまうのである。
要するに、端的に金儲けをして自分の家族や地元
の仲間たちを潤し、結果的にまわりまわって
地域に貢献するので何が悪いのか、
ということなのである。
外国人労働者について調べたかったら
地元のスナックに行って常連に話を
聞くのが一番です。
そもそもスナックは地域住民が話し相手を
求めにくる場所なので、外から来た「一見
さん」であってもある程度その町につい
て勉強していることを示せば、快く話
を聞かせてくれる人が集っているからです。
ですから、もちろんスナックで飲むという
のも大好きですが、調査をしに行く場所
でもあるのです。
実に多くのスナックが地方都市にあり、
人口3000人規模の町であれば、必ず
1軒は存在するのです。
都会と異なり娯楽が少ないので、たわいのない
会話を求めて人々が集まる社交場です。
スナックのようにすでにある施設を団らんなど
の場として利用していくのは、地方の急速な
高齢化や医療費増大への対策として考え
られるのではないでしょうか。
公共性という視点からスナックを再考する
価値はあると思います。
谷口 功一 (著)『日本の水商売。法哲学者、
夜の街を歩く』
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今回も最後までお読みくださり、
ありがとうございました。感謝!