累計約一千万部の大ベストセラー「大水滸伝」を
生み出した作家・北方謙三氏。
全盲ろうのハンディキャップを乗り越え、
東大教授になった福島智氏。
これまで二百以上もの北方作品を点字で
読破し、「地球人の中で最も会いたい人」
と福島氏が語っていた運命の出逢い
から一年半あまり。
その後も含め、計三回の対談を重ねた
二人による魂の対話録が、このたび
一冊の本となって刊行されます。
互いに深く尊敬し合う二人が自らの
ルーツや越えてきた試練、逆境、
人生観や仕事観などについて
語り合いました。
自らの人生や人間そのものを深く見つめて
きた二人の交わす言葉は非常に重く、
かつ深いものがあります。
対談の中では、『水滸伝』や『三国志』などの
創作秘話も語られるなど北方作品ファンに
とっても必読の内容です。
北方謙三氏が、福島智氏に初めて出逢った時の
エピソードを本書の「まえがき」に感動的に
綴っておられます。
その冒頭部分をお届けします。
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まえがき 北方謙三
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私が部屋へ入っていくと、
彼は立ちあがった。
顔はいくらかずれていたが、
躰は真正面で私にむいている。
眼も耳も不自由な人である。
自己紹介したあと、
どうしていいかわからず、
私は宙に手を泳がせてしまった。
言葉はすぐに届かないのだ、と
くり返し自分に言い聞かせた。
それでも自然に手が差し出され、
握手をした。
気配を把握する力は、
私などよりずっと強いのだろう。
私は、掌に集中した。
思いはすべて、そこにある。
なにかが、通じたような気がした。
お互いの命。
生きているよな、という感覚。
あるいは、よう、という出会いの挨拶。
盲ろう者、福島智との対談である。
不安と戸惑いがまとわりついていたが、
それは握手でかなり消えた。
会話がはじまった。
私は、ことさらゆっくりと喋り、
それがあまり意味のないことだと、
しばらく気づかなかった。
早口であろうがどもろうが、
指点字の通訳者の人に、
まず伝わればいいのである。
ほとんど間を置かず、言葉が返ってくる。
指点字を受信し、漢字への変換も
脳内で瞬時に行われ、
驚くほど正確にこちらが言ったことを
把握した上での、返ってくる言葉なのだ。
鈍い健常者と話すより速く、
会話が進行しているような気さえした。
不思議な空間に
迷いこんでいるという思いに、
私はしばしば襲われた。
これが、福島智との、
会話のはじまりである。
途中から、盲ろう者と喋っているのだと、
私は思えなくなった。
そして、言葉が、
ただの言葉ではなくなったのだ。
意味は、通じ合う。
意味以上のなにかを帯びて、
二人の間で言葉が躍る。
掴みどころがないのに、
輝きだけは感じる。
そんな表現しかできない。
(……続きは本書でご覧ください)
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出逢いこそ運命。
魂がぶつかって生まれるもの
『運命を切りひらくもの』
北方謙三/福島智・著
定価=本体1,200円+税
【先行予約スタート】
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目次
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第一章 未来をひらく道
第二章 逆境が自分を育てる
第三章 生きて、生きて、生き切れ!
・最初の一行が出てくるまで苦しみ続ける
・イメージはどこから生まれてくるのか
・人生にマニュアルを求めるな
・いまも大切にしている父からの手紙
・極限体験が創作の土台に
・惚れた相手は鏡に映った自分である
・いろんな国の女性たちと仲良くなる秘訣
・言葉がなければ人間の魂は死んでしまう
……etc
今回も最後までお読みくださり、ありがとう
ございました。 感謝!