結局、なぜ怒るのかと考えたら、
本田さんは経営者として考えているんです。
こうしなきゃお客さんは喜ばないという
発想だから、考え方が哲学的になる。
一方、こちらはデザイナーとしての視点だけで
考えている。つまりシンキングレベルが
違うわけです。
本田さんは、いつもしつこいくらいに
「いいモノをつくるにはいいものを見ろ」
とおっしゃっていました。ある時、
こんな苦い経験をしたことがあるんです。
「アコード」の4ドア版をつくっていた時の
ことでした。
僕らのデザインチームは、4ドアを従来の
3ドアの延長線上に考えて開発を進めていた。
ところが本田さんは「4ドアを買うお客さん
の層は、3ドアとは全然違うぞ」
と言って憚(はばか)らない。
ボディは四角く、メッキを付け、
大きくて(価格が)高そうに
見えるようにしろと言われるのです。
僕は内心、そんな高級車はよその会社に
任せればいいと考えていました。ほんの気持ち
程度の対応しか見せない僕らに、本田さんは
「君たちはお客さんの気持ちが全然分って
いない。自分の立場でしかものを見ていない」
と日ごとに怒りを募らせてきます。
毎日、よく似たやり取りが続き、
我慢の限界を感じた僕は
「私にはこれ以上できません。
そんな高級な生活はしていませんから」
と口にしていました。本田さんはそれを
聞くなり「バカヤロー!」と声を荒げ、
「じゃあ聞くが、信長や秀吉の鎧兜(よろい
かぶと)や陣羽織は一体誰がつくったんだ?」
と言われたんです。
大名の鎧兜をつくったのは、
地位も名もない一介の職人。
等身大の商品しかつくれないのであれば、
世の中に高級品など存在しなくなる。
自分の「想い」を高くすればできる。
心底その人の気持ちになればできるんだ、
と(本田さんは)教えてくださったんです。
(※本記事は月刊『致知』2007年8月号
特集「人は教えによりて人となる」より一部を
抜粋・編集したものです)
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今回も最後までお読みくださり、
ありがとうございました。感謝!