1日1話、読めば心が熱くなる
365人の仕事の教科書
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「努力の上の辛抱という棒を立てろ」
桂 小金治(タレント)
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十歳の頃、僕にとって忘れられない
出来事があります。
ある日、友達の家に行ったら
ハーモニカがあって、吹いてみたら
すごく上手に演奏できたんです。
無理だと知りつつも、家に帰って
ハーモニカを買ってくれと
親父にせがんでみた。
すると親父は、「いい音ならこれで出せ」と
神棚の榊の葉を一枚取って、それで
「ふるさと」を吹いたんです。
あまりの音色のよさに僕は思わず
聞き惚れてしまった。
もちろん、親父は吹き方など教えてはくれ
ません。
「俺にできておまえにできないわけがない」
そう言われて学校の行き帰り、葉っぱを
むしっては一人で草笛を練習しました。
だけど、どんなに頑張ってみても
一向に音は出ない。
諦めて数日でやめてしまいました。
これを知った親父がある日、
「おまえ悔しくないのか。
俺は吹けるがおまえは吹けない。
おまえは俺に負けたんだぞ」
と僕を一喝しました。
続けて、
「一念発起は誰でもする。
実行、努力までならみんなする。
そこでやめたらドングリの背比べで終わり
なんだ。
一歩抜きん出るには努力の上の
辛抱という棒を立てるんだよ。
この棒に花が咲くんだ」
と。
その言葉に触発されて僕は来る日も
来る日も練習を続けました。
そうやって何とかメロディーが
奏でられるようになったんです。
草笛が吹けるようになった日、
さっそく親父の前で披露しました。
得意満面の僕を見て親父は言いました。
「偉そうな顔するなよ。
何か一つのことができるようになった時、
自分一人の手柄と思うな。
世間の皆様のお力添えと感謝しなさい。
錐(きり)だってそうじゃないか。
片手で錐は揉めぬ」
努力することに加えて、
人様への感謝の気持ちが生きていく上で
どれだけ大切かということを、
この時、親父に気づかせてもらったんです。
翌朝、目を覚ましたら枕元に新聞紙に
包んだ細長いものがある。
開けてみたらハーモニカでした。
喜び勇んで親父のところに駆けつけると、
「努力の上の辛抱を立てたんだろう。
花が咲くのは当たりめえだよ」
子ども心にこんなに嬉しい言葉はありません。
あまりに嬉しいものだから、
お袋にも話したんです。
するとお袋は、
「ハーモニカは三日も前に買ってあったんだよ。
お父ちゃんが言っていた。
あの子はきっと草笛が吹けるように
なるからってね」
僕の目から大粒の涙が流れ落ちました。
いまでもこの時の心の震えるような感動は、
色あせることなく心に鮮明に焼きついています。
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今回も最後までお読みくださり、
ありがとうございました。感謝!