本書をご覧になる方は、
「え、これが小学校の教科書なの?」
と驚かれるかもしれません。
子どもたちには難しすぎるのではないかと
思われる方もおられると思います。
しかし、そんなことはありません。
私は『金言童子教』や『実語教』など、
江戸時代の寺子屋で使用されていた教科書を
現代に読める形で再刊してきました
(『子どもと声に出して読みたい「実語教」』
『子どもと声に出して読みたい「童子教」』)。
江戸時代の子どもたちは、
本書に掲載されているより
もっと読みにくい文章を、
書き下し文や漢文の返り点つきで読んでいました。
それを考えると、現代の子どもたちは
圧倒的な量の情報の扱いに慣れていますから、
多少難しいものであっても柔軟に吸収し、
対応することができるはずです。
難しいと大人が勝手に判断して与えないのは、
大車輪ができる能力のある子どもに
延々と逆上がりをやらせているようなものです。
モーツァルトの音楽が
子どもにもわかりやすいのと同じように、
漱石の文章も子どもたちには十分に伝わるのです。
本物には本物にしかない力があります。
それが心の深い部分にまで届くことにより、
「読解力」として一生を支えてくれるものになります。
そのようにして精神文化が形成・継承されていくことが、
実は国語という教科に課された
隠れた重要なミッションなのです。
日本語を教えるだけでなく、
言葉を通して日本人に受け継がれてきた
精神文化をしっかりと積み上げていく。
それが、一生を通して自分の心を
安定させていくことに繋がり、
他者を理解する力に繋がっていきます。
いろいろな文章を読んで理解するということは、
他者の思考を理解するということです。
それができれば、コミュニケーションも
うまくいきますし、仕事もうまくいきます。
そして、自分がこの世界に生きていることの
喜びも感じられます。
本書に掲載した文章を読んで、
「ああ、こんな人がいたんだ」という感動を
ぜひ子どもたちに味わっていただきたいと思います。
「なんだ、これ?」と最初は思うかもしれませんが、
「これはすごいものなんだな、きっと」
と思って読んでいくうちに、
「ああ、よく読むとこんなにいいことが書いてあったんだ」
と気づき、感動できるようになります。
私自身、いろいろな文章に出会う中で、
そうした感動を積み重ねてきました。
それは人生最大の喜びになりました。
この国語教科書を読む中で
自分の内側にそういう喜びが湧き上がるのを、
子どもたちにはぜひ感じてほしいと願っています。
齋藤 孝
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今回も最後までお読みくださり、
ありがとうございました。感謝!