国際情報社会の日本におけるボスだった1,179号

 迫り来る国家の危機。主役たちの陰で、

「不世出の官房長官」は何を語ったか

―著者畢生の平成危機管理史。

 後藤田正晴という老政治家の人生の

幕引きは、我もかくありたしと思う

ばかりの心憎いまでに見事な「男

の美学」に彩られたものだった。

 この生き馬の目を抜く情報化社会の時代

に、なんと2日間も喪を秘し、本当に

親戚関係だけの密葬・焼骨を

すませていたのである。

 私が役人を辞めてから16年間、後藤田

さんの危機管理指揮は続いていた。

 その下命は、すべて一本の電話だった。

 私はこの電話を「ゴット・フォン」

とネーミングした。

 後藤田さんは複雑なキャラだった。

 「剃刀後藤田」と異名をとり、官僚の

中の官僚、骨の髄から内務官僚であった。

 「情報の鬼」「治安の鬼」でありながら

「戦さ」を憎み、冷徹な理論家であり

ながら人情モノのドラマをみて、

ひとり涙を流す。

 田中角栄に見出されて金権政治を生み

だした悪の権化のように悪口をいわ

れながら、清廉潔白、身を持

するに巌だった。

 また照れ性で露悪家、気に入った人ほど

逆表現の悪口雑言、死生観を透徹して

いて、細心にして大胆、テロを恐

れず、家庭的で大の宴会嫌い。

 複雑なキャラの気難しい老人だったが、

一たび国の一大事、国民の生命、財産、

身体の危機が起きたとなると、この

複雑な多重人格が「生涯現役の

官房長官」として「乃公出で

ずんば」という、「護民

官魂」一つに融合し、

血湧き、肉踊り、目を輝かせる。

 この16歳も年の違う後藤田さんと私とが

不思議な連帯感を抱いて協力し合って

きた接着剤は、一体なんだったんだろうか?

 どうもそれは、一等国を四等国にして

しまった責任世代の贖罪意識、自分の

時代に、新しい指導原理と国家目的

をもった立派な国にして次代に渡

したいという後藤田さんの責任

感と、四等国扱いされた屈辱、

廃墟と化した貧困のドン底

から、日本を再び一等国

にしてやろうという昭

和一桁の高い志とが、

うまく結びついたのではないか。

 この世にも珍しい特別権力関係は、平成

17年に後藤田さんがこの世を去った

とき、終わったのだ。

 無茶苦茶なミッション・インポッシブルの

命令、意見を異にしたときの、烈しい論争。

 もってゆき場所のない公憤をぶちまけ

たり、人より早く入手した極秘情報

を報告する喜びも、もうない。

 「情報の鬼」だった後藤田さんの夢は、

「内閣情報局」の創設だった。

 戦後の外交一元化の大方針の下、国際

情報や各省庁海外駐在官の情報がす

べて外務省に報告され、重大な

情報、とくに「悪い情報」

が官邸に届かない現状

を憂え、情報構造

改革の必要性

を機会あるごとに説き、

システム化しようとして果たせなかった。

 後藤田さんは、警察駐在官が半世紀保持

してきた全世界の情報機関、CIA、

KGB,MI6,ゲーレン

(ドイツ)、スデック

(フランス)、

モサドなどとの情報交換を

政治・外交の裏面で、非常に大切に

した、得難い政治家だった。

 彼らが通報してくるイヤな悪い情報、

例えばテロ、スパイ、麻薬、武器

密輸などには、真剣になって

耳を傾け、しかも絶対に

他言しない、国際情報

社会の日本における

ボスだったことは、意外に知られていない。

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今回も最後までお読みくださり、

             ありがとうございました。感謝!

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