「大器晩成」「上善は水の如し」「和光同塵」
「怨みに報いるに徳を以ってす」――日本人
に親しみ深いこれらの金言・警句は、
みな『老子』が出典である。
二千数百年もの昔に著され、わずか五千余字から
なる書物の言葉が、なぜ日本人の生き方・考え
方に深い影響を与えたのか。
本書は、『老子』をめぐる基礎知識の解説と、
全文の訳注を完備した、その独特の思想世界
を理解する上での格好の入門書であり、
争いに満ちた現代を生きる上でも
多くの示唆を与えてくれる。
『老子』は、無為に生きよ、自然の
ままがよいという。
もっとも無為といっても、何も
しないということではない。
無作為、つまりことさらな行為を
しない、ということである。
老子の考えることさらな行為とは、人が日常
生活を維持するのに必要な最小限を
越えるすべての営みをいう。
戦国争乱の世に生きた老子にとって、世の君主
たちの行使する権力・武力、乱世を救うためと
称して儒家を始めとする百家の提唱する道徳・
政策、人の蓄積してきた知識・知恵、その
所産としての文化・文明、これらのすべては人の
生み出したことさらな作為であり、
いわば贅肉である。
老子のいう無為の唱導とは、こうした贅肉を削ぎ
落とせということであり、それが人のあるが
ままの自然の姿だ、ということである。
老子が世の常識に反してこのような主張を掲げた
のは、彼の生きた当時の状況によほど目に余る
ものがあって、人が何事かを為そうとすれば
するほど、世相はいよいよ険悪の度を
加えていくと考えたからである。
老子が理想としてひそかに思い浮かべていた
のは太古の原始素朴の世である。
『老子』は字数でいうと約五千数百字である。
老子は、戦国の世相を睨む憂世の思想家である。
見聞による知識はあてにならない。
戸口から外へ出なくても、居ながらにして
天下の情勢は分かるものだ。
窓から外を覗かなくても、居ながらにして
自然界の推移は分かるものだ。
そこで「道」を体得した聖人は、出歩かないで
すべてを察知し、現場を見ないですべてを
判断し、ことさらなことはしないで
すべてを為しとげる。
柔弱は堅強に勝つ。
万物にあっても、たとえば草木が生え出たときは
柔らかでもろいが、枯れると乾いてかさ
かさになってしまう。
つまり堅強であるものは死の仲間であり、柔弱
であるものこそが生の仲間なのである。
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今回も最後までお読みくださり、ありがとう
ございました。感謝!