熊本県において、日本国内で最も多く
お産を手掛けている病院をご存じで
しょうか? 年間のお産数は実に
3,800名。妊産婦からも絶大
な信頼を受けているのが、福田病院です。
福田病院では、どのような工夫がなされ
ているのか―。理事長を務める福田さん
に、医療にかける思いが様々な形で
結晶化した取り組みについてを
お話しいただきました。
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福田 稠(福田病院理事長)
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私は昭和48年に産科医になり、最初は
国立熊本病院に勤務していました。
その頃は、戦後にたくさんできた産婦人
科の開業医が、設備の老朽化などで医
療の進歩についていけず、だんだ
ん立ち行かなくなっていました。
当院も老朽化が進んでおり、自分が後を
継いでから先のことがとても不安でした。
しかし、大病院を見ると、健康な妊婦
さんたちも大部屋に押し込まれて、
病人と同じものを食べさせられている。
「患者はどうせたくさん食べないから
2食でいい」というところまであり、
これでは妊婦さんは大変です。
がんのような難しい病気では大きな病院
が安心ですが、お産なら開業医も選ば
れるチャンスは十分にあると思い、
私は病院の環境を徹底的によく
していくことにしたのです。
『聖書』に出てくる羊飼いが、100匹の
羊の群れから迷い出た一匹を救いに行っ
たように、大病院の産科医療という
のは、重篤な患者の対応が中心
になっています。
ですから当院では、残りの99匹を大事
にするような環境づくりに力を
注いでいったのです。
もちろん1匹を救うことも重要です。
NICUの導入なども早くから手掛け、
医師や助産婦が難しい症例も含めて
診療に専念する一方、コック
さんや旅客機のキャビン
アテンダントのよう
な働きができる人材も集めて、
普通の妊婦さんたちに快適に過ごして
いただくことにも力を注いでいきました。
最初に手掛けたのが病室の個室化で、
当時はお産後のシャワーなどもって
の他と言われる中で、バス、ト
イレも完備しました。病院
内にレストランを設け
ておいしい料理を提供した
り、美容室やエステなどの施設
も導入しました。
(中略)
そのような取り組みを評価していただき、
福田病院で出産したいと、よその地域
からも妊婦さんが来院してくださる
ようになってきましたが、辛い
こともありました。それは
少子化で限られたシェア
の中から患者さんを
奪ってしまい、同業の先生方
の経営を圧迫してしまったことです。
また、先にも述べましたが、立ち会い
出産を始めた時には、随分批判を受
けました。例えば、ご主人に
臍の緒を切ってもらうの
は医師法違反だと言うのです。
自分の子供の臍の緒は業として切る
わけではなく、医師法違反ではないの
ですが、なかなか理解を得られませんでした。
その時にも別の先生から、新しいことを
始めれば衝突も起こる。けれども喧嘩
だけはするなと諫められました。
それはキリスト教的に言えば、赦すと
いうことでしょう。そのような温か
い励ましをいただきながら、今
日までやってきました。
もちろん辛いこともありますが、出産
の喜びというのは我われが側で見て
いて嫉妬するほど大きなものです。
そのような場を提供できる幸せという
のは、何ものにも替えがたいものが
あります。やはり妊婦さんたち
の笑顔、それから職員の笑
顔、これがこの仕事を
続けていく大きな原動力です。
『致知』2019年1月号【最新号】
特集「国家百年の計」P52
今回も最後までお読みくださり、
ありがとうございました。感謝!