地球の温暖化防止と火星への移住法の
確保という人類規模の壮大な目標を
掲げるその個性は現代の起業家
の中でも突出している。
ベンチャーとしては極度にリスクの
高い重厚長大産業で新たな手法に
次々に挑み、米国のものづく
り復権の最先端を走る。
しばし考えた後で、整理された答え
が流れるようにあふれ出る。
大胆な構想と冷静な判断でテスラや
スペースXなどを率いる希代
の起業家マスク。
マスクは間違いなく米国に
おける製造業の旗手だ。
既存業界を破壊し革新を生み出すことを
善とするイノベーション教の教祖のよ
うにも扱われるが、本書はそうし
た一面的なマスク礼賛の立場は取らない。
マスクの事業群は突出した起業家
独りで成り立つものではない。
著名なベンチャーキャピタリストを中心
とする人脈が足りない部分を補う。
シリコンバレーのエコシステムだけで
なく、米国の政府系機関の研究の蓄
積やインフラも総動員している。
多くの産業にまたがるマスクの企業群は、
米国の基礎研究の遺産、世界から集まっ
た最先端の技術者たち、シリコン
バレーでアップルが育成して
きたデザイン・マーケティ
ングに長けた人材などの上に立っている。
マスクとその周辺の動きを押さえること
は社会インフラの未来を占う上でも不
可欠な知識になり始めている。
その姿は複雑でつかみどころがない。
ゲームとサイエンスフィクションを愛す
るオタクでもあり、工場に泊まり込み、
取引先の部品メーカーの工場をふ
らりと訪問する生粋のエンジニアでもある。
マスクは仮説をすぐに実行に移す。
仮説の力で人を集め、達成の
ために人を追い詰める。
そこには単なる抽象的な構想
にはない手触りがある。
本書はありていに言えばイーロン・
マスクという人物をダシにして
米国の今を切り取ろうとしたものである。
駐在中に特に印象に残ったのは、マスク
を含めたシリコンバレーの起業家や投
資家が若くても驚くほど産業史
に詳しいことだ。
過去を破壊するイメージがあるシリコ
ンバレーだが、意外なほど過去にも
向き合う。歴史に名を残そうと
する野心はもちろんだが、
プレゼンで自社を大き
く見せるために歴史
的意義をアピールする必要もあるためだ。
兼松雄一郎『イーロン・マスクの世紀』
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今回も最後までお読みくださり、
ありがとうございました。感謝!