京セラやKDDIを創業し、それぞれ1.5兆円、
4.9兆円を超える大企業に育て上げた
故・稲盛和夫さん。
まさに人生を経営に懸けてきた稲盛さんが
「人は何のために生きるのか」をテーマに、
致知出版社主催の講演会で語られた
貴重なお話を抜粋してお届けします。
─────────────────
〈稲盛〉
この我々の自然界には、微生物から動植物まで、
たくさんの生物が存在しています。
そして、それらはすべて循環をしております。
例えば、地中にはいろいろなバクテリアや
細菌がいて植物の根の成長を助け、
それによって地上に草が繁茂します。
すると、そこに草を蝕む昆虫類がたくさん
群がってきます。これらの昆虫は、昆虫同士で
食べたり食べられたりして生存をしています。
また、草食動物も草を食べます。
そして今度は、その草食動物を肉食動物が
食べて命を永らえていきます。
肉食動物は老いて朽ち果てると、また土へ
帰っていき、それが土壌を豊かにし、そこに
また新しい草花や木が生えるようになります。
このように自然界は循環をしているのですが、
それは同時に、命の連鎖が続いていることを
意味しています。自然界のあらゆるものは
生命の鎖でつながっているのです。
草は昆虫に蝕まれて昆虫を育て、また草は草食
動物に食べられて草食動物を繁栄させます。
草食動物は肉食動物に食べられて、
肉食動物の繁栄を支えている。
その肉食動物も、やがて死を迎えると
バクテリアによって分解され、
植物の栄養となるのです。
自然界はそういう命の連鎖でつながって維持
されています。つまり、これらの一般の生物
たちは、自分が生きるだけではなくて自分の
命を差し替えて他の命を助けているのです。
そのような循環が、
この地球上では延々と行われてきております。
我々人間は大変素晴らしい知恵を神から授かって
います。
素晴らしい頭脳を駆使して近代科学を発展させ、
素晴らしい文明社会をつくってまいりました。
知恵によってあらゆる生物の頂点に位し、
地球上にあるあらゆる生物を食べて生き永らえ、
繁栄を図ってきました。
見方を変えますと、
一般の動植物は自分の命を差し出して
他の生き物を助けてあげていますが、
我々人間は、植物でも動物でも
すべてのものを殺して生き永らえて
繁栄を続けているのです。
そうやって生物の頂点に位し、
それぞれの人生を生きているのが
我々人類の姿であります。
そう考えると、
私にはこういう思いが湧いてくるのです。
人間は素晴らしい知恵を持つと同時に、
素晴らしい理性とか良心というものを
持っているではないか。
ならば、すべての命を収奪して生きるだけ
ではなく、理性とか良心の領域を使って、
他のものたちに対して何か施しをすることも
考える必要があるのではないだろうか。
せっかくこの世に生を受けたのですから、
命のある限り自分だけが生きるというのでは
なくて、我々人間も世のため人のために
少しでも尽くして生きるべきではないのか。
わずかでもいいから、世のため人のために
尽くす生き方が人間として大変大事なのでは
ないか。そこに、この人生を生きていく
意義があるのではないかと思うのです。
つまり、私たちは何のために生きるのかといえば、
その第一の目的は、世のため人のために
ささやかでもいいから尽くすことであると
私は思っているのです。
※本記事は月刊『致知』2006年6月号
特集「開物成務」から一部抜粋・編集
したものです。
致知出版社の人間力メルマガ
今回も最後までお読みくださり、
ありがとうございました。感謝!