不世出の建築家アントニオ・ガウディが設計
した「サグラダ・ファミリア教会」。
着工から130年以上の歳月を経たいま、なお
未完のまま工事が続く壮大な聖堂の建設に、
日本人として参加してきたのが彫刻家・
外尾悦郎さんです。
建築家、彫刻家など計約200名が働く
サグラダ・ファミリアの中で、
最も長期間勤め続け、ガウディの意志を
最も深く受け継いでいるといわれる外尾さん。
本国の名だたる彫刻家たちを抑え、重要な仕事
を任されてきた理由は何なのでしょうか。
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〈外尾〉
私自身の気持ちとしては昔から何も変わって
いませんが、ただはっきり言えるのは、
34年もあそこで仕事ができるとは一度も思わ
なかったということ。いつもいつも「これが
最後の仕事だ」と思って取り組んできました。
私は長らくサグラダ・ファミリアの職員ではなく、
一回一回、契約で仕事をする請負の彫刻家でした。
教会を納得させる作品ができなければ
契約を切られる可能性がある。
命懸けという言葉は悲壮感があって
あまり好きではありませんが、でも私自身と
しては常に命懸け。というのも命懸けで
なければ面白い仕事はできないからです。
ただ本来は生きているということ自体、
命懸けだと思うんです。
戦争の真っただ中で明日の命も知れない人が、
いま自分は生きていると感じる。
病で余命を宣告された人が、
きょうこの瞬間に最も生きていると感じる。
つまり、死に近い人ほど生きていることを
強く感じるわけで、要は死んでもこの仕事を
やり遂げる覚悟があるかどうかだと思うんです。
この34年間、思い返せばいろいろなことが
ありましたが、私がいつも自分自身に
言い聞かせてきた言葉がありましてね。
「いまがその時、その時がいま」
というんですが、本当にやりたいと思っている
ことがいつか来るだろう、その瞬間に大事な時
が来るだろうと思っていても、いま真剣に目の
前のことをやらない人には決して訪れない。
憧れているその瞬間こそ、
実はいまであり、だからこそ常に真剣に、
命懸けで生きなければいけないと思うんです。
(※本記事は『致知』2012年12月号
特集「大人の幸福論」より一部を抜粋・
編集したものです)
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今回も最後までお読みくださり、
ありがとうございました。感謝!