国交が正常化した1972年から2022年までの
50年間にわたる日中関係の諸問題を切手と
ともに紐解いていきます。
中華世界には、「指桑罵槐」(しそうばかい)、
すなわち、表面上はある人物・組織を批判しな
がら、その本当の批判の対象は別の人物・
組織であるという、独特の政治文化がある。
日中関係は、この指桑罵槐がもっとも明瞭
に観察されるフィールドの一つといっても
過言ではない。
トウ小平の時代、中国は共産主義の思想を
実質的に棄却することで経済成長を実現
し、権威主義体制を維持するための新
たなイデオロギーとして「愛国」を
強調するようになった。
対日関係と歴史問題は、しばしばこの「愛国」
の強弱をコントロールするための調整弁に
なっており、この微妙な匙加減の一部
は、中国の切手にも浮かび上がって
くることがある。
それらを丹念に拾い集めるとともに、日本
切手に描かれた中国のイメージを組み合
わせることで、従来とは違った角度
から、複雑極まりない日中関係史
を俯瞰できるのではないかと考えた。
ブラックスワンはきわめて希少な鳥として、
1697年に発見された際には当時の人々
からは驚きをもって迎えられ、そこ
から「物事を一変させること」の
象徴ともされるようになった。
中越戦争は、客観的にみれば、ベトナムに
対する中国の侵略戦争であったが、西側は
これを強くは避難せず、日中関係にも
ほとんどダメージを与えなかった。
それどころか、日中関係の安定を最優先に
考えていた大平首相は、中国の近代化を
支援するとの大義名分の下、中国への
円借款供与を実現するための
具体的な準備を開始する。
国交正常化交渉時の外相として中国が戦時
賠償を放棄した「善意」を無邪気に受け
止めていた大平は、賠償の代わりに
円借款で埋め合わせをすることが
中国との友好を増進させ、国益
に寄与すると本気で信じていた。
賠償を放棄するという「恩」を着せることに
より日本に心理的な負い目を与え、延々と
援助を引き出そうと狙っていた中国に
よって、これ以上、都合の良い相手はいない。
「軍国主義復活」と攻撃されていた中曽根首相
でさえ、「日中友好」に疑問を抱かず、過去へ
の反省のしるしとして中国への経済協力は
当然である、と明言してしまうのを目の
あたりにして、中国側が「日本、与し易し」
と理解するのは必至だった。
著者は1967年、東京都生。東京大学文学部
卒業。郵便学者。日本文芸家協会会員。
切手等の郵便資料から国家や地域のあり方を
読み解く「郵便学」を提唱し研究・著作活動
を続けている。世界切手展のテーマティク
部門において日本人として初めて金賞を
受賞したほか、アジア国際切手展なら
びに世界切手展の審査員も務める
など、世界的にも高い評価を得ている。
内藤陽介 (著)『現代日中関係史:第2部』
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今回も最後までお読みくださり、
ありがとうございました。感謝!