美人の武勇伝。
会社の同僚A子。当時20代後半。長澤まさみ似の美人。結婚することになった。
私を含めて課の全員が披露宴に招待され、「その幸運な男の顔を拝もう」と、
いそいそ出席。
輝くばかりに美しい新婦の隣には、
ものすごく影の薄い新郎。
今ここで会って、明日になったらもう顔が思い出せない。例えば警察とかに
「どんな人でした?」と訊かれても答えられない。
そんな感じ。A子が一度会ったら忘れられない美人だから、ある意味
つり合いは取れてるかもね、と話し合った。
1年ほどして、A子が何となく元気がない。
ランチに誘って「このごろ疲れてない?忙しい?」と訊いてみた。
A子はもごもごしていたが、やがて「うーん、あのねえ、旦那が、浮気してるの……」。
あの影薄男が!? いい度胸だな!
しかも浮気相手の女が本気になったらしく、A子に電話やメールで「旦那と別れて」
と言ってきているとか。浮気相手もいい度胸だな!
しばらくして、A子が私に頼みがあるという。なんと、かの浮気相手が、A子と直接
会って話したいと。
A子「会おうと思うんだけど、できれば、“私”さんについてきてもらえれば
ありがたいんだけど……」
私「なんでっ!? 部外者がいたら、話ができないんじゃない?」
A子「録音はするつもりだけど、証人も欲しいし……。それにもし、相手が逆上して、
刃物とか持ってたら怖いし」
つまり、心細くて不安だってことだ。
私は「なるほど。じゃ一緒に行く」とOKする。
不謹慎ながら、こりゃ本物の修羅場が拝める、と内心ドキドキワクワクしていた。
96の続き。結局、修羅場にはならなかった。
A子旦那の浮気相手との会見当日。場所はファミレス。
私は1人で、あくまで無関係な客を装って、
2人の会見を近くの席から見ていて、騒ぎが何もなければそれでよし、
何か起きたら止めに入る、ということになる。
私は指定の時間の10分ほど前に店に入る。それらしい女はまだいない。
時間ちょうどに、若い女が1人で入ってくる。
こいつか。さりげなく観察。これがまた、
ものすごく影の薄い女。
今ここで会って、明日になったらもう顔が思い出せない……(以下略)。
私は不謹慎ながら、「あの影薄男にしてみると、毎日家でローストビーフを食べてると、
外でお茶漬けとか食べたくなるようなことなのかなあ」と考える。
5分ほど遅れて、A子登場。
びしっとスーツで決めて、気合の入った化粧して、店内を見回す。
影薄女を見つけ、ハイヒールのかかとをカッカツと鳴らして近づき、仁王立ち。
女を見下ろして、
「“影薄女”さん? “影薄男”の家内です」。
影薄女、A子を見上げると、その目がたちまちうるみ、両手で口を覆い、
「ひどいっ!!」と一言叫ぶなり、席を立って、走って出て行ってしまった。
瞬殺。ざまあみろ、身のほど知らずめ。
A子は「人の顔見て、ひどいって何よ」と怒っていたが、いやいや違うって、
逆だって。
そしてその日から、女とは全く連絡が取れなくなった。A子の旦那=影薄男は、
仕方がないのでA子のもとに戻ってこようとしたが、追い出された。
当たり前だ。
やっぱり「毎日家でローストビーフを……(以下略)」みたいなことを
言い訳していたらしい。
なんだかんだ言っても、美人は強い。
今回も最後までお読みくださり、ありがとう
ございました。 感謝!