エルメスの五代目当主であるデュマ・エルメスは
ロベールの第4子でもあり、そもそもエルメス
を継ぐ気はなかったという、いわば傍流の
社長である。パリ大学法学部、パリ政経
学院卒業後にアルジェリア戦争に従軍
し、ニューヨークのデパート、ブル
ーミングデールに研修生として半年間勤務した。
「伝統あるブランドでも革新が
なければ付加価値がない」(デュマ)
デュマは「高いブランドイメージを維持するため
にどんな手を打っているか」との質問に対して、
「開発、生産、販売を一貫してパリ本社が
管理することに尽きる」と語っている。
エルメスの魅力のひとつに、過去の製品でも現在
の製品でも不思議に統一感があり、ロゴがある
わけでもないのだがエルメスのものだと
感じさせる「雰囲気」がある。
「エルメスは、160年にわたって時代の先端で
あるよう努めてきたが、6ヵ月ごとに変わる
ようなファンションの中に、身を置く
ことはしない」(デュマ)
流行を超越したスタイルは、時代そして地域を
問わない人気の源泉であり、エルメスが「別格」
「ブランドのなかのブランド」と称される
所以ともなっている。
「デザインの源には資料となる実物が存在する
わけで、必ず何らかの『物語』が隠されている」
デザイナーが語るように、エルメスのスカーフ
の最大の特徴は、徹底した実物や実話の描写
による「物語性」が秘められている点にある。
日本でもかつては、工芸品や織物のデザインの
ひとつひとつに意味が込められていた。たと
えばざくろは豊穣の、桃は幸福の象徴と
いった具合に、職人たちのごく一般
的な知識であった。
「日本では伝統は単に過去の継承になっている。
一方、われわれは伝統に新しい要素を常に取り
込み、揺さぶり続けてきた。そこが違う。
京都にはエルメスに力を与えてくれる
エネルギーの源があるが、日本は
それを生かしていない」(デュマ)
ファッショナブルでないこと、モードを超越して
いること。この点がエルメスの高級感そして
別格感の源泉であり、それが製品そして
広報の各レベルでぶれなく伝えられる
ことで、エルメスは独自のステイ
タスを維持しているのである。
エルメスでは馬具製造の出自から、簡素を旨と
するデザインを得意としてきた。簡素性を
極めると、調和や美の構成則を探る
幾何学や数論にまで辿りつく。
エルメス本社には、長い歴史のなかで、存亡
に関わる危機を経験しながら淘汰を経てきた
伝統と、長期的展望に根ざした戦略がある。
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今回も最後までお読みくださり、
ありがとうございました。感謝!