情報を武器にすれば.リスクはチャンスに変えられる 第 2,965 号

 スパイというと映画『007』の印象が強く、

華やかでカッコいいイメージがつきまとう

が、実際のスパイの仕事は一般のビジネ

スと同様に、とても地道なもの。

 コツコツとデータを集め、確実性や不確実性

を推し量り、ネットワークを構築し、それを

手繰り寄せる。膨大な手間と労力を要する

仕事であり、それはビジネスにも役立つ

ノウハウが詰まっている。

 重要な政治決定の裏側にはスパイが絡んでいる。

かつてのキューバ危機やフォークランド紛争、

旧ソ連のゴルバチョフ書記長の動きもすべ

てお見通しだった。それは単なる偶然

ではなく、当時の政治指導者の力

でもなく、さまざまな情報を

分析したスパイたちのおかげだったのだ。

 本書は、その手法がスパイだけでなく、

ビジネスパーソンも応用できることを

教えてくれる。

 著者は、イギリスのGCHQ(イギリス政府通信

本部=国内外の情報収集・暗号解読を担う諜報

機関)に勤務した後、防衛省を経て、GCHQ

長官を務めるなど、“スパイの親玉”だった

ともいえる人物。マネジメントを含めた

大所高所の視点を持ち合わせている点も魅力だ。

1982年3月、ロンドンの国会議事堂で、マーガ

レット・サッチャー首相は顔をしかめて、

私が手渡した報告書を読んでいる。

そして、「これはまずいわね」と言った。

「はい、首相」と私は答えた。

「報告書からは、アルゼンチン政府がフォーク

ランド諸島へ侵攻する準備を完了しつつある、

としか読めません。おそらく、今度の

土曜日でしょう」

 私は当時、ジョン・ノット国防大臣の主席秘書官

だった。フォルダに入っていたのは、アルゼン

チンの海軍通信を傍受し、暗号を解読した

通信文だった。演習中の艦艇が再結集

しているとのことだった。

 艦艇の座標を分析した結果、目的地は、フォー

クランド諸島のポートスタンリーに間違い

ないとGCHQは結論を出していた。

 合同情報委員会(JIC)の直前の評価は、アル

ゼンチンは武力を用いるのは避けたいと考えて

いる、とのことだった。

 イギリスが突然、フォークランド紛争に突入

することになった衝撃は、私の記憶の深くに、

いまだに残っている。誤った判断が、どれ

ほど大きな影響をもたらすかを

見せつけられたからだ。

 情報を武器にすれば、リスクはチャンスに変え

られる。

 相手の立場で考える。

 真の信頼関係を構築する。諜報機関は、強固な

協力関係に価値があることを十分に学んでいる。

 思い込みに頼って間違えたときは、とても

大きな過ちになる。専門家さえ、

この罠に陥る。

 いったん妄想にとらわれると、なんでもない

ことを陰謀の裏付けとして解釈するように

なる。私の経験では、秘密情報の世界

でも、陰謀よりもへまをして失脚

するほうが確実に多い。

 双方が交渉中であることを公に認めたくない場合

には、外交の「裏ルート」が対話を維持する

ために重要な役割を果たしうる。

 チャーチルは、言った。「うしろを見れば

見るほど、未来が見える」

デビッド・オマンド (著), 月沢 李歌子 (翻訳)

  『最強の知的武装術。英国諜報機関』

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  今回も最後までお読みくださり、

      ありがとうございました。感謝!

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