1998年、わたしは念願のアウディに移籍する
ことになった。しかし、わたしはその時点でド
イツ語のドの字も知らなかった。英語も仕
事で通用するレベルではなかった。
デザイン部門で、はじめてプレゼンをした。
アウディにとっては初の日本人デザイナー
がどんな絵を描くのか。競争心旺盛
なデザイナーたちは誰もが好奇
心いっぱいで集まった。そ
して、わたしのスケッチ
を見た途端、スタジオ内が騒然となった。
そのうち若いデザイナーの声が聞こえてき
た。「Super Cool!(超カッコイイ)」
和紙に描いたそのA6のスケッチは、私が幼い
ころに描いていたマンガと習字のテクニック
を応用した山水画のようなタッチだった。
才能豊かなアウディのデザイナーたちは私の
スケッチの技量と同時に、和紙やマンガ
そして習字といった日本文化のレベ
ルの高さ、洗練性を感じ取りつ
つ私を受け入れてくれた。
ドイツ語も英語もろくに使えなかった私のアウディ
でのコミュニケーションは、たった1枚のスケッ
チから始まった。言葉で説明できない分、説
得力のあるデザインを見せて感じて
もらうしかなかった。
炊き立ての白いごはんは美しい。美しい
ものは身近にある。そんな発見が
デザインのヒントになる。
今日のデザインに必要な大原則は次のこと。
1.手を使うこと。
2.足を使うこと。
3.学ぶこと。
4.考えること。
5.そして最後に感じること。
わたしの日課はまずジョギングから始まる。
走ることで体と気持ちのバランスが整え
られる。走りながら新鮮なアイデア
が浮かぶ。わたしは昔からデス
クでアイデアを出したことはない。
私は老子や荘子を常に愛読している。どんな
デザイン教科書にも書かれていない時空を
超えた声だ。「万物の実相を見極める
には、常に無欲でなければならない」
まず部屋の掃除から始めよう。美しい部屋
は必ず人を幸せにしてくれるはず。
美しさとは自然の原理。
部屋の美しさはその国の文化レベルを示す。
その街に住む人の部屋の美しさは、
その街の美しさと比例する。
言い換えれば、街に住む人の部屋の汚さは、
その街の汚さと比例するということだ。
世界各国でいろいろなお宅にお邪魔してきた
が、これはかなり当たっている理論だと思う。
部屋と街、美しさは比例する。
アウディは世界で最も美しいクルマを創れる
会社だ。アウディというブランドを通して
美しいものを世に提供したい。
アウディの持つフィロソフィ、「Vorsprung」
とは何か。勇気を持って前進するという
意味。それはハートで感じること。
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未来のつくりかた』
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今回も最後までお読みくださり、
ありがとうございました。感謝!