The Best & the Brightest―ケネディが集め、
ジョンソンが受け継いだ「最良にしても最も
聡明な」人材だと絶賛されたエリート達が、
なぜ米国を非道なベトナム戦争という
泥沼に引きずり込んでしまったのか。
賢者たちの愚行を、綿密な取材で
克明に綴るベトナム問題の記念碑的レポート。
あれは12月の寒い日だった。はるかのちに、あ
の暗殺と心の痛みのあとで、老人はあの日のこ
とを、あの青年政治家の優雅さと礼儀正しさ
を、そして訪れるものの心を和らげずには
おかない彼の魅力とを、鮮明に思い
起こすのであった。
あと数週間でこの青年は、アメリカ合衆国大統領
になる。ジョージタウンの彼の家を取り囲む記者
たちにとって、どんな些細なことも、どんな
動きも、どのような言葉も、そして彼の
この臨時組閣本部を訪れるどのような
人物も、特ダネの対象であった。
強大な権力と偉大な任務を目前にして、この
青年には叶わぬものが何もないように見えた。
容姿は端麗、しかも金持ちだった。率直で
魅力的な人柄であった。
彼は言った。自分でも後悔しているのだが、
この5年間選挙運動に明け暮れていたため、
真の公人、行政府を動かす実力のある
真摯な公人を、だれ一人として知る
ことができなかった。自分の知っ
ているのは政治屋だけなのだ、と。
これが彼一流の自己卑下的な表現であったと
しても、老人の耳には決して不快に
響くことはなかった。
権力の何たるかを知る老人。
老人は、ロバート・ロヴェットであった。
専門家の象徴的存在、その道の超一流、
スティムソン、マーシャル、アチ
ソン時代という、当時はまだ
批判の対象とはなっていな
かった戦中戦後の、あの
成功に満ちた輝かしい過去を現在に
結び付ける偉大な生存者なのであった。
それまでほとんど知りあうことのなかった、
この青年と老人は、ウマが合った。
次期大統領ケネディは、じつは、理想主義と
懐疑主義の二面を等しくもつ人物だった。
国務省を動かすには、本物の実力者を長官に
据えなくてはならない、しょせん国務省は
ズボンの腰抜けか、それにも及ばない
俗物のうようよしているところだ、
という話を先輩から何度も聞かされていた。
その先輩とは、ほかならぬ、父ジョゼフ・
ケネディである。
ジョゼフは息子との話し合いの中で、
つねにロバート・ロヴェットに触れ、
彼こそは、ありし日のウォール街
第一級の人物だと思う、と強調
していた。
父は息子に語った。あの男は、権力の所在、
権力の使い方、つまり権力の何であるかを
知っている。彼は若いころから権力を
講師しているが、不思議なことに
世間ではあまり知られていない。
なぜか。それは単に偶然の仕業ではない。
優秀な財界人で政府に働くものは、自分
の仕事の価値、その仕事に対する自分
の権利に確信があるから、何もあら
ためて名前を売り込むことなど必要ではないのだ。
彼は真の実力者の中でも超一流である。
思慮分別こそ望ましい。無名・匿名は
安全である。仲間は自分のことを、
自分の役割と能力とを十分わかっ
てくれている。
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今回も最後までお読みくださり、
ありがとうございました。感謝!