ニュースになっていない
ものが国際情勢を作る。
日本の大使館が海外でやっている
広報活動も、あまり報道されない。
広報というのは、もっとマメで地道で、
話しかける相手に合わせたオーダー
メードのものである。
ワシントンでも大使や館員が手分けして役人
や議員、そして議員スタッフに会い、毎日
のように開かれる諸方のセミナー、シン
ポジウムに出席しては、日本の立場を
効果的に─効果的にと言うのは、た
だ叫ぶのではなく、聞き手の共感
を呼ぶようなやり方でしゃべる
ということ─刷りこんでいる。
「毅然として」より「しれっとして」。
もっと余裕をもって堂々と、「しれっとして」
いればいいではないか。長い歴史の中で機多
の戦火をくぐってきた関西人は、言葉に
だまされない。ものごとを、その名前
ではなく実質で判断しようとする。
僕も現役時代には、意識して図々しく振る
舞った。国際会議では節目、節目で、誰も
反対できない、格好がいい、ただし日本
政府には費用が一銭もかからないこと
を言って日本を印象づけるよう努め、
会議場で席が決まっていなければ
目立つ席を素早く占拠したものだ。
アメリカを味方につける。
ロシアや中国は、いつもアメリカにたて突く
くせに、他ならぬそのアメリカに多額の資金
をつぎ込んで、広報やロビイングをやって
いる。ロシアも中国も、英字新聞を発行
したり、衛星テレビを流して、涙ぐま
しいほどの努力だ。
反日にもキレずにいなして足をすくう。
相手の土俵で相撲は取らない。相手がこちら
に都合の悪いことを言ったら、少しこちらに
負い目があるなと思っても、あえて反論し
ない。真正面から反論すると、世界は
「はあ、そんな問題があるのか」と
いうことで、そっちのほうにばか
り関心が向き、日本の反論の
ほうはろくに聞いてもくれない。
だから他人の面前で批判された場合には、
からめ手から出る。鉄道会社の友人に、
「このごろの公務員はなってない」
と言われたら、「そんなことよ
り、新幹線代、法外に高い
じゃないか」とでも言っておくと、
向こうは釈明に追われ、公務員のこと
はどこかに行ってしまう。
今の時代、日本は優等生ではもうやっていけ
ない。「悪ガキ」になる必要がある。ただし、
外交官だったら英語はもちろん、中国語、
フランス語などもかなりできないと、
もう学者や企業人に負けてしまう
し、歴史、法律、経済、軍事
等々の知識も身につけていないと駄目なのだ。
世界を論ずるなら、井戸の外に出なければ
ならない。井戸の外に出るとは、外国に出
かけて、その国の人々に話しかけ、社会
のひだの隅々まで勉強するということである。
特に日本では、「あの総理なら、あの大臣なら、
前からお世話になっている。あの人の言うこと
なら」ということで関係者や関係団体が動き
出さないと、ものごとはなかなか決まら
ない。だから総理とか政治家はどう
いう政策を持っているかよりも、
誰を知っていて、何人を説得
できるか、ということの
ほうが、重要な資質なのだ。
そして一人の人間の能力には限界があって、
社会のすべてに目を光らせて問題を見つけ、
その解決策を考えることはできない。
国会議員や官僚たちが現場の情報を集め、解
決策を大臣や総理にいくつか提案する─
こうやって政治は初めて回るのだ。
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今回も最後までお読みくださり、
ありがとうございました。感謝!