祭りの熱狂は魂のアイデンティティの確認なり 第 2,823 号

 『土佐日記』の作者・紀貫之は、国司の任を

終えた送別の宴で連日、熱烈に歓待された。

酒好きが多く、酔うほどに胸襟を開く

土地柄なれば、開放的な酒宴は今

なお健在、と高知出身の著者は言う。

 福沢諭吉の名言ならぬ「酒は人の上に人を造らず」

を地でいく著者は、東京の下町をはじめ、北海道、

福島、京都、愛媛、熊本など各地を訪ね、出

会った人たちと縁を結ぶ。酒場の風情と

人間模様を描く、読みごたえたっぷり

紀行エッセイ。平安時代の歌人、

紀貫之が著した「土佐日記」に、

土佐人の酒宴好きを垣間見ることができる。

 東北の陸奥最奥の地酒といえば、「田酒」を

筆頭に挙げる酒飲みは多い。

 縄文土器や土偶がアートとして開花し、

落葉広葉樹の巨木の森におおわれて

いた太古の青森。

 今は、地理と歴史が時空を超えて、

錯綜する迷宮のように思える。

 立ち飲みは、古くは「立ち酒」と呼ばれて

いた。「出立」あるいは「別れ」に際し

て酌み交わす酒の儀式だった。

ここで一句。「ハイボール、弾ける

初夏の、ブルージーン」

 酒縁は、めぐる。気の合う飲み仲間を

得ることは、無上の喜びかもしれない。

 粋な飲兵衛作家、坂崎重盛さん。

飲酒歴が半世紀にもなるご隠居

の話のネタは尽きない。

 多彩な引き出しからブラック・ジョーク

まで飛び出してくる。ほろ酔えば舌も

滑らか、退屈などしない。

 下町酒場を渡り歩くことで、

見えてくるものがある。

 いい酒は、いい酔いに満たされる。

 女は、優れた女優の資質を生まれ持つ。

 祭りの熱狂は、魂のアイデン

ティティの確認なり。

 お酒の神様は、いくつあってもかまわない。

万物に神々が宿るとする日本古来の神道

は、一種の精霊崇拝だろう。

吉田 類 (著)『酒は人の上に人を造らず』

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  今回も最後までお読みくださり、

      ありがとうございました。感謝!

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