多額の借金を抱えた老舗旅館を僅か2年で
黒字化した温泉旅館女将の宮﨑知子さん。
女将になるつもりはなかったという宮﨑
さんがなぜ女将になり、どのような改
革をしていったのでしょうか。
───────────────────
宮﨑 知子
(鶴巻温泉元湯陣屋旅館女将)
───────────────────
──女将になられたいきさつを
教えてください。
それが、女将になる一週間前まで全く
やる気はありませんでした(笑)。
陣屋の跡取りだった主人と2006年に
結婚したんですけど、主人は継ぐ気
はなく、主人の両親もそれを
了承していたんです。
主人はホンダのエンジニア
として働いていました。
ところが2009年夏、2人目の出産予定
日の10日前に環境が一変しました。
私が切迫流産のために入院していると、
義母から突然、「借金が10億円あって、
旅館の経営がかなりまずい状況に
ある」と知らされたのです。
話を聞くと、義母が10億円もの借金を
つくったわけではなくて、バブル崩壊
後、10年、20年と少しずつ積み上
がっていった借金が、リーマン・
ショックによって手がつけら
れない状況になってしまっ
たとのことでした。
前年に陣屋のオーナーだった義父が急死
し、義母も過労から入退院を繰り返す
ようになっていて、実の息子である
主人にどう切り出せばいいのかと、
その時相談されたんです。
それで私が入院先から電話越しに主人に
状況を伝えたところ、開口一番、「ホ
ンダの生涯賃金を超えてる」と
言われました。
──普通に働いて返せる金額ではない……。
自分たちで返せないのであれば、すべ
てを手放すしかありません。
義母の今後の生活費だけでも賄えれば
と思い、M&Aで売却した際にどれ
だけ財産が手元に残るのか、いろ
んな所に見てもらいましたが、
どこも使い物にならないと。
一社だけ運営権を買ってもいいという
ので、買い取り額の見積もりを出して
もらったところ、土地、建物、従業
員、すべてを含めてたった
の1万円でした。
しかも、「借入金の保証人からは
抜けないこと」という条件付き。
なので、失敗したら借金
だけが残るんです。
──厳しい条件ですね。
その会社はホテルチェーンでしたので、
主人にどんなホテルを運営しているか
お客さんとして見てきてもらったん
ですけど、どれもピンとこないと
言うので、任せるべきじゃ
ないと判断しました。
そうしたら、もう自分たちで
やるしかないんです。
ですから、やりたいかやりたくない
かとか、できるかできないかとか
考える余地もない。
右にも左にも行けなくて、私たちが
進めるのは一本道、しかも
後戻りはできません。
娘が生まれて2か月後の10月に、10億
円の借金だけを抱えて陣屋の女将
に就任しました。
※宮﨑さんの旅館再建の道程は2月号
で詳しく紹介されています。
『致知』 2018年2月号
特集「活機応変」P50
今回も最後までお読みくださり、
ありがとうございました。感謝