米朝衝突の危機に加え、帝国主義化する中露
の指導者は独裁色を強めつつある。グローバ
リゼーションの進展で、経済も政治も各段
にスピードが早くなり、国家の意思決定
はますます迅速さが求められるように
なった。手間もコストもかかる民主
主義への市民のいらだちは募るばかりだ。
しかし、だからといって、
民主主義は捨てられない。
獄中から彗星のように現れた佐藤優さん
は、凄まじいばかりの知的エネ
ルギーを秘めていた。
常の外交官、獄中体験者、情報分析官
なら、自らの体験を語り尽くせば、
たちまち痩せ細っていく。
だが「佐藤ラスプーチン」は
日々進化を遂げていった。
膨大で雑多な情報の海から事態の本質を紡ぎ
出す業こそ「インテリジェンス」の意なのだ
が、その手並みは練達の寿司職人を思わせる。
21世紀のいま、忍び寄る「独裁」の足音
を聞き分け、読者に警告を発している。
そんな「インテリジェンス感覚」をいかに
すれば磨くことができるのか、ラスプーチ
ン流の手法を本書から存分に身につけて
いただきたいと思う。
情報の世界では、稀に度肝を抜くよう
な極秘情報に接することがある。
北の独裁者の傍らに忍ばせていた情報
源から「金正恩の意図」が打電されて
くるといったケースだ。
政権の中枢にいる外交官や分析官は、
そうした宝石にも似た情報に
触れることができる。
だが極秘情報には、しばしば危険な罠が仕掛
けられている。フェイクニュースは諜報
の世界にこそ溢れているからだ。
それゆえ、インテリジェンスの世界では、
「オシント」と称される公開情報こそ
貴重なのである。
膨大な公開情報を独自の視点から
読み解き、日々蓄積に努める。
佐藤優という孤高の情報分析官は、
外務省を去った後も、こうした
営為をひとり続けてきた。
ビッグデータは今日、大変なブームなの
だが、膨大なデータを貯め込むことに
価値があるわけではない。
一般情報つまりインフォメーションの
海から、光り輝く原石を見つけ出し、
彫琢し抜いてこそ、初めて価値
あるインテリジェンスとなる。
僕はホワイトハウスやペンタゴンを十数年
にわたって担当していましたから、大小
合わせて十回近い戦争に付き合ってきました。
パナマのノリエガ掃討作戦から湾岸戦争、
アフガン戦争さらにはイラク戦争。こう
してみると、アメリカという国家は、
休む間もなく戦争を繰り返して
いるというのが実感です。
そうした経験からいうと、この国が
武力行使を決断したな、と分かる
瞬間があるものです。
2001年の9月に同時多発テロ事件が起き、
2003年の3月にはイラク戦争が
始まりました。
当時のブッシュ大統領は、いつ、サダム・
フセイン政権への攻撃準備を決意した
のか。じつは随分と早い、2001
年の年の瀬でした。
この時、ホワイトハウスの空気がスーッと
変わったことを鮮明に覚えています。
公式の発表があるわけじゃない。政権の
高官が大統領の決意を洩らしたり
するわけでもありません。
要するに「空気」なのです。ブッシュ大統
領はこの時期に、ラムズフェルド国防長官
に対イラク攻撃の作戦計画を策定してほ
しいと密かに打診していたことが
後に明らかになっています。
手嶋龍一『独裁の宴。世界の
歪みを読み解く』
の詳細、Amazon購入はこちら↓
今回も最後までお読みくださり、
ありがとうございました。感謝!