人々の様々な人生の悩みに寄り添い、
YouTube番組「大愚和尚の一問一答」を通して
メッセージを発し続けている
愛知県・福厳寺住職の大愚元勝さん。
大愚さんは、多くの人たちが視聴するこの
番組にどのような思いを込めるのでしょうか。
『致知』4月号の記事の一部をお届けします。
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(大愚)
住職に就任する一年前、2014年のことです。
関東からある母娘が私のところに相談に来られ
ました。お母様から事情を聞くと、娘さんは
恋人に酷い振られ方をし、受験にも失敗。
拒食症、過食症を繰り返し、何度も自殺未遂
を図るまで心身共に追い込まれた状態でした。
私のアドバイスなど聞く耳を持たず、
「アンタに何が分かるのよ」と
突然鞄の中からカッターナイフを取り出し、
自分の手首を切ったのです。
私はその瞬間、反射的にバチンと彼女を張り
倒しました。腕を掴み、傷口を確認。幸い
軽傷だったものの、彼女の手首に無数の
蚯蚓腫れがあるのを発見し、こう伝えました。
「これを見なさい。あなたが死にたいと
思って何度もつけた傷でも、体は生きたいと
思って修復し続けているんだよ」
彼女はこの言葉から何かを感じ取ってくれた
ようで、ひとしきり泣いた後、母と共に寺を
後にしたのでした。
この親子のように、誰にも言えない悩みを抱え、
救いを求めている人がいる……私はそう実感し、
若い頃、悩み苦しむ日々の中で出会った
一人の言葉に希望を見出し、
救われたことを思い出しました。
これまでの体験を織り交ぜながら
お釈迦様の話を届けることが、
誰かの命を救うことに繋がるかもしれない─。
そう考え、匿名でも相談しやすいようにと、
当時普及し始めていたYouTubeを使って
「大愚和尚の一問一答」の配信を始めたのです。
仏教や僧侶の価値を社会に問うために、
あえて広告宣伝をせずに始めた試みでしたが、
冒頭のように多くの方々に
視聴されるようになりました。
YouTubeの広告収入はすべて
番組制作資金や次の活動資金にしていますが、
「売名行為だ」「お金儲けだ」
と中傷されることもあります。
私はそれでも構わないと思っています。
仏教の基本的な姿勢は人を縛りもせず押しつけ
もしない、簡単に言えば「どうぞ自由に見て
ください」という姿勢です。番組を見るも
見ないも、批判するのもすべて自由だと
考えているからです。
番組を見た視聴者からよく「心が楽になった、
救われた」とメッセージをいただきますが、
それは決して私の力ではありません。
私の話を聞いて何かに気づき、自らの心を癒や
して苦しみを乗り越えたその方自身の力です。
※『致知』2022年4月号「致知随想」より
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今回も最後までお読みくださり、
ありがとうございました。感謝!