「米国一強」で成り立ってきた世界秩序は崩壊する。
その一方で、中国、ロシアの存在が大きくなり、
再び混沌の時代がやってこようとしている。
だが世界はすぐに「新秩序構築」へと向かうだろう。
その中で、英国は”したたかな„外交手腕を
発揮するに違いない。
英国のEU離脱がなぜ起きたのかという真相を
つまびらかにしつつ、日本の進むべき
道を提唱する。
第二次世界大戦後の世界秩序の中で繁栄に慣れ
きった日本人に新たな視点を与える1冊だ。
私は、2005年から2008年まで駐アイルランド
大使を務めた後、2011年から2016年5月まで
駐英国大使として英国に勤務した。
その経験に基づいて言えば、英国はこれまでも、
そして明日以降も、したたかな国であるという
こと、日本はその英国から大いに学ぶべき
だということだ。
幸運にも、日本はそういう英国と基本的
利害が共通している。
そのことを認識し、英国と緊密に連携していく
ことが日本の国益になると確信している。
英国はEUにいたから大きく見えていた。
EU28か国の意思決定において英国は
重要な役割を果たしてきた。
EUは、ドイツとフランスと英国の三角形
で安定してきたと言ってもよい。
その理由として、英国が国連安保理の常任理事国
であることに加え、EUの中では最強の軍事力
を持っているということが挙げられる。
さらにジェームズ・ボンドで有名な対外諜報機関
MI6、スパイ取締りのMI5をはじめとする
世界でトップクラスのインテリジェンス能力
を持っていることも英国の発言に重みを与えている。
その軍事力と情報力がEU28か国の意見を集約
し、誘導することに重要な役割を果たしている。
同時にその28か国の重みが、今度は英国の
言動に大きな重みを与えているのだ。
また英国の影響力の背景には、英国が国際的な
ルールメイキングにおいて、それなりの影響力
を発揮してきたという背景もある。
ヨーロッパはもともと歴史的にルールメイキング
を非常に得意としていて、様々な世界の
ルールをつくってきた。
それは古くから海外に進出して様々な国と交渉
を続けてきた財産ともいえるかもしれない。
そのため、国際的な機関もヨーロッパ
に集中している。
英国が世界で大きな影響力を持ち続けている
のには、さらにもう1つ理由がある。
それは世界の共通語となっている英語の存在だ。
欧米が何かルールや方針を決めようという
とき、どうしても英語が中心になる。
その際、起草して、うまくまとめて、自分に都合
がいいような提案をするという能力に長けている
英国人は、その能力をいかんなく発揮する。
その結果、まず相談される相手になり、
世界からも一目置かれることになる。
いまの英国経済は、世界でもっともオープン
になっているといっても過言ではない。
ビジネスをするために出ていくのも入って
くるものも自由な「資本の色を問わ
ない国」になっている。
英国の自動車産業は、ロールスロイス、ジャガー、
ミニなど有名なブランドを持っているが、実は
純粋な英国資本の自動車会社はもはやない。
ドイツや米国、インドなどの外国資本が入って
いるし、英国で生産される車の半分は日本の
3社(日産、トヨタ、ホンダ)によるものだ。
「資本の色なんかどうでもいいんだ。要は雇用が
英国人にもたらされる限りは何でも構わない」
ということだ。
日本人にはとてもできない
思いっきりのよさである。
日本に求められる英国との協調。
英国は米国の政治・安全保障・外交上の「いぶし
銀」のような伴走者として、かけがいのない
パートナーの役割を「大西洋同盟」
の中で果たしてきた。
今の日本は、たしかに過去の問題や憲法上の
制約、世論の支持の問題があって、武力の
行使に関わるような側面で、英国と
同じレベルを目指すのは難しい。
しかし、英国との間に平和維持活動、兵站、
装備技術、教育訓練などの分野で相互補完
的な協力関係をつくり、強化して
いく余地は十分ある。
英国には、世界に冠たるインテリジェンス
体制がある。
世界で協調・協力していくうえでも、また米国と
付き合っていくうえでも、各国情勢・地域情勢
についての情報を集め、正確に分析する
力がますます重要になってくる。
そのとき、絶好のパートナーとなるのが米国
との緊密な同盟という立場を共有し、多く
の国際問題で共通の立場を取る英国なのだ。
それを基に、したたかな外交政策で苦境を
勝利に転換していく能力にも長ける
英国から学ぶことは多い。
英国がかつてナポレオンやヒトラーに勝利した
ように、EU離脱を見事にやってのけても
私は驚かないことだ。
英国の地位の維持に大いに役立っている安保理
常任理事国の椅子や英連邦のネットワーク、
米国との特別な関係、EUとの連携、
さらに言えば英語という世界
言語などの歴史的な遺産は、日本にはない。
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今回も最後までお読みくださり、ありがとう
ございました。感謝!