童謡を歌い、子供たちと一緒に心を養いたい―
その思いで30年以上にわたって童謡を歌い続け
てきた日本国際童謡館館長の大庭照子さん。
昔は日本人なら誰もが口ずさんでいた童謡が
歌われなくなっていく現代日本において、
大庭さんに改めて童謡の持つ力と素晴らしさ
をお話しいただきました。
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〈大庭〉
……以前、ある中学校に行った時のことです。
どんなに注意しても、生徒たちがずっとソワ
ソワしてじっとしていられないのです。
ただ、単なる行儀が悪いというのとは違った
のです。コンサートが終わった後、
「この地域は厳しい環境で育った子どもたち
が多く、赤ちゃんの時に抱っこされたり、
言葉を掛けられたりする経験が少ない子が
多いのです。その結果が出ているのです」
と先生が教えてくださった時の驚きを
覚えています。
私は童謡もまた、幼児期には言葉掛けと同じ
くらい大切なものだと思っています。
現在、学校関係のほかに産婦人科で赤ちゃん
を対象とした子守唄コンサートや老人介護施設
で認知症の方を相手にコンサートを開催する
など、聴衆が全世代へと広がり、その思いは
ますます強くなりました。
中には童謡を子どもの歌、簡単な歌と思っている
方もいるかもしれません。
しかし、私はクラシックからシャンソン、
演歌などジャンルにとらわれず歌っていますが、
一番難しいのは童謡だと感じます。
誰にでも分かるやさしい歌詞とシンプルな
メロディーで感動を伝えるには、テクニック
だけではダメなのです。
一フレーズ、いや一言一言を疎かにせず、
心を込めなければ歌い切れないのです。
童謡をしっかりと歌えるようになったら、
どんなジャンルでも歌えるようになる。
それが私の持論です。
しかし、かく言う私も童謡を歌い始めたばかり
の頃は「子どもの目線で、明るく、かわいく」
と勘違いをして歌っていました。
しかし、子どもの真似をするのなら、子どもが
歌ったほうがいいのです。
人生の山坂を乗り越え、辿り着いたいまの自分
の人生を素直に歌に込めるからこそ、相手の
心に響く。
それは聴衆が大人でも子どもでも同じこと。
そういう意味で、私は童謡は「人生の歌」
だと思います。
※本記事は月刊『致知』2007年1月号
特集「心を養い生を養う」より一部抜粋・
編集したものです。
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今回も最後までお読みくださり、
ありがとうございました。感謝!