かつて月面宙返りで世界を熱狂させた体操の
金メダリスト、塚原光男さん。
極限のプレッシャーに打ち克ち、見事金メダル
を掴み取られた努力の奇跡に迫ります!
────────[今日の注目の人]───
☆ 極限のプレッシャーとの闘い ☆
塚原 光男(塚原体操センター社長)
×
村上 和雄(筑波大学名誉教授)
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【村上】
現役時代はツカハラ跳びや月面宙返り
など、たくさんの新しい技を
生み出されましたね。
【塚原】
人のできないことをやってみたいと
いうのが体操を始めたきっかけ
でしたからね。
とにかく新しい技をやるのが楽しくて
しょうがなくて、いろいろ挑戦
したら結果的に大会で優勝
したという感じでした。
ですから体育館にいる時間は僕は
一番長かったと思います。
【村上】
二十世紀を代表する科学者である
アインシュタインも、人から
天才と言われると、
「いや、私は天才ではありません。
好奇心が強いだけです」と
答えたそうです。
塚原さんの体操への打ち込みようは、
まさにこのコメントに通ずる
ものがありますね。
【塚原】
よく「大変だったでしょう」なんて
言われましたが、別に大変でも
なんでもないんです。
自分はそれを楽しんでいるわけだから(笑)。
遊びのように夢中にやっている中から、
ふっと画期的な技が出てくるんです。
それがツカハラ跳びだったし、月面宙返り
だったということです。
技術の進歩が著しいので、いまは中学生
でもやるんですけれどもね(笑)。
だけど当時は僕しかできませんでした。
結構練習しましたよ、直前まで一所懸命に。
ミュンヘンオリンピックの一年半くらい前
から特訓を始めて、国内予選ではずっと
着地が上手くいかなかったんですが、
本番では団体でも個人でも9.90
という高得点をマークできました。
あれほど決まったのは本番だけでした。
【村上】
本番で一番いい演技を決めるというのは
本当に凄いですね。
【塚原】
それはもうたくさん練習しましたからね。
あの瞬間のために何年も準備を重ねて
きた結果です。
【村上】
研究の世界は失敗してもやり直しが
きくんですよ。
しかしオリンピックは4年に一度しか
チャンスが巡ってきませんから、
まさにその瞬間に最高の力が
出なければなりませんね。
極限状態のようなプレッシャーは、どの
ようにして克服されたのですか。
【塚原】
これは競技者にとって一番大きな命題です。
それが分かっていれば誰でも成功するん
ですが、やっぱり分からない。
結局、失敗する時というのは、技術的な
欠陥がどこかにあります。
本当のプレッシャーがかかってもズレ
ない技術力と、それを支える筋力
があるかというのが一つ。
もう一つはメンタルの面ですけれども、
どんな試合でもプレッシャーと
いうのはかかってきます。
これはもう避けることはでき
ないんですね。
心臓なんかバクバクしながら
やっていますよ。
そういう中でも演技できるように準備を
しっかりやっていくんです。
ですから自分の理想像を常にイメージして、
何度も練習をしてそれに近づけていく。
あえてプレッシャーをかけてやってみたり、
同じ技を何十回も繰り返したりして、
本番のプレッシャーの中でも
演技できる準備を何度も
何度も何度も重ねていくんです。
それでも結果は運命に委ねるしかない。
それは怖いですよね。
最後の最後は本当に分からないから、見事
決まった時には感謝しちゃいますよ。
ありがとうございますって。
『致知』2015年2月号
連載「生命のメッセージ」P102
今回も最後までお読みくださり、ありがとう
ございました。 感謝!