自然を生かしつつ自分らの意思を表現している 第1,255号

 木は人間と同じで一本ずつが全部違う。それぞれの木の

癖を見抜いてそれにあった使い方をしなければ…。

 一生を桧と古代建築ですごしてきた著者が、木をいかに

生かすか、技や勘、人をいかに育てるかについて語る。

 一人前の職人になるためには長い

修業の時間がかかります。

 近道や早道はなく、一歩一歩進むしか道がないからです。

学校と違って、頭で記憶するだけではだめです。

また本を読んだだけでも覚えられませんな。

 自分で経験を積み、何代も前から引き継がれてきた

技を身につけ、昔の人が考え出した知恵を受け

継がなくてはならないのです。

 私らが相手にするのは檜(ひのき)です。

木は人間と同じで一本ずつ全部違うんです。

 それぞれの木の癖を見抜いて、それにあった使い方

をしなくてはなりません。そうすれば、千年の

樹齢の檜であれば、千年以上持つ建造物

ができるんです。これは法隆寺が

立派に証明してくれてます。

 法隆寺を造り守ってきたのは、こうして受け継がれて

きた木を生かす技です。この技は数値ではあらわ

せません。文字で本にも書き残せません。

それは言葉にできないからです。

 技は人間の手から手に引き継がれてきた「手の記憶」

なのです。古代建築はほとんどが檜ですな。

 『日本書紀』に「宮殿建築には檜を使え」という

ことが書かれています。檜はいい材です。

 湿気に強いし、品がいい、香りもいい、それでいて

細工がしやすい。檜は材になっても生きてます

のや。千年たっても鉋をかけてやれば、

いい匂いがしまっせ。

 自分だけで勝手に生きていると思っていると、

ろくなことになりませんな。こんなこと、

仕事をしていたら自然と感じること

でっせ。本を読んだり、知識を

詰め込みすぎるから肝心の

自然や自分の命がわからなくなるんですな。

 鎌倉時代の建物はいいですね。それは自然を生かし

つつ自分らの意思を表現しているからですな。

 当時の人たちの生き方が出ていきていますな。

生きること、死ぬことを考える潔さ、それ

までの古い仏教に衝撃を与えた禅という

考え、簡潔で力強く、斬新で控えめ

というんですかね。精神性がありますな。

 わたしら檜を使って塔を造るときは、少なくとも

300年後の姿を思い浮かべて造っていますのや。

 こうしたことは学校や本では学べません。

大工や職人の仕事というのは体で覚え、

経験を通して学んだ学問なんですわ。

 西岡常一『木のいのち、木のこころ<天>』

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今回も最後までお読みくださり、

         ありがとうございました。感謝!

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