リチウムイオン電池の開発によって、
モバイルIT社会の到来を引き寄せた吉野彰さん。
キーワードは「平均年齢36・8歳」。
研究者としての歩みを振り返られ、
若い人たちにチャレンジ精神を
大いに発揮してほしいと期待の言葉を発しています。
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吉野 彰(旭化成名誉フェロー)
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──昨年には日本国際賞を受賞されるなど、
吉野先生が開発されたリチウムイオン電池に
対する評価は年々高まっていますね。
ありがとうございます。リチウムイオン電池の開発は、
簡単に言えば電池を小型軽量化したわけですが、
様々な小型携帯電子機器が主体となった
モバイルIT社会を実現した、という側面もあるんですよ。
もちろん、リチウムイオン電池の力だけで
そうなったわけではありませんが、
ある意味「世界を変えた」と言えるくらいの研究開発に
携われたというのはとても幸運なことだったと思っています。
(中略)
そもそも、リチウムイオン電池の研究が始まった1981年には、
いまのモバイルIT社会なんてまだ誰も想像すらしていませんでした。
いろいろな電子機器がポータブル化されていくであろうという
一つの大きな流れがあったのは事実ですが、
当時我々が需要を見込んでいたのはあくまで
八ミリビデオカメラ単体のマーケットだったんですよ。
それだけでもかなり大きなマーケットでしたが、その後、
今日のような世界規模の大きなリチウムイオン電池の
マーケットが生まれるなんてことは、
当時は予想すらしていませんでした。
──日本発の世界的な開発なだけに、
今後の展開も楽しみですね。
おかげさまで会社からは70歳を機に名誉フェローとして
遇していただいたので、いまも研究開発に関わるとともに、
最近は大学での講義の他、高校での特別授業などもやっています。
やっぱりこれからは若い人たちに頑張ってほしいですね。
特に科学技術の分野では日本の未来を危ぶむ声が多く聞かれますけど、
新しい研究者が結構出てきているところもあるんですよ。
「実るほど頭を垂れる稲穂かな」という言葉があるでしょう。
これは年と共に腰を低くして謙虚になりなさいという意味ですが、
僕はその意味を逆手に取って、実る前から頭を垂れたらいかん、
と若い人たちに言うんです。
真夏の一番伸び盛りの時に頭を垂れていたらダメだからね(笑)。
──ユニークな解釈ですね。
それに歴代のノーベル化学賞を受賞された方々が
受賞した研究を始めた年齢を平均すると、36・8歳なんだそうです。
これは僕もリチウムイオン電池の研究を始めたのが
33歳だったこともあって、すごくよく分かる気がするんですよ。
というのも、20代は世の中のことはもちろん、
仕事の進め方もまだよく分からない。
ところが30代になると世の中の仕組みがだんだん見えてきて、
知恵もついてくる。
ある程度権限も与えられるようになることも大きいでしょう。
それにたとえ失敗しても、
まだもう1回くらいは挑戦できるという余裕もある。
ところが40代に入ると、万が一失敗したら
「俺の一生は終わりだ」というプレッシャーが出てくるものだから、
どうしても無難な研究テーマを選んでしまう。
これは企業だけでなく、アカデミアの世界でも一緒だと思います。
それだけに、チャレンジ精神を大いに生かすという意味でも
若い頃というのはとても大事なので、僕自身もそうでしたが、
おとなしく頭を垂れている暇なんてないんですよ(笑)。
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今回も最後までお読みくださり、
ありがとうございました。感謝!