日本の政治はなぜかくのごとき惨状を呈する
にいたったか?このことが、角栄との二十年
に及ぶ格闘の末、もうウンザリだと思っ
た著者を再び角栄へと向かわせた。
権力とカネ、忠誠と裏切り、男たち女たちの
愛と嫉妬と憎しみの政治的人間ドラマに、あ
らゆる角度から肉薄した注目の一冊。政治
は情念の世界、そのものなのである。
田中角栄は、「汚れ役」だった。汚れ役と
いうのは、表に出たら「汚い」と思われて、
世の指弾を浴びるに違いないすべてを、
それは自分の責任でございますと泥
をかぶり、親分は、真っ白のまま
にしておく役である。
角栄の汚れ役は、カネ作りだけでなく、
カネを使っての政治工作とか、スキャ
ンダルの封じ込めとか、多面的にやっていた。
角栄は、自分がそういう役回りを引き受ける
ことによって、自分の政治力を高めつつ
あるのだという、自覚があった。
政治の本質は、利害の調整にある。政治力と
いうのは、妥協しがたい立場に立つ対立者間
に、妥協を作り出す能力、つまり合意形成
能力ということ。
それに必要なのは、妥協点を見つけ出す能力
であり、当事者双方に、それを飲ませる能力
だ。そういう能力において、角栄は特に
優れていた。
佐藤栄作首相は「沖縄返還」実現のため、
日米繊維交渉をまとめあげることが、最
大の急務と考え、田中角栄をその任にあてた。
それまでの二代にわたる通産大臣である、
大平、宮沢でも問題は解決できなかった。
角栄は、通産大臣に就任わずか3か月で
このどうしょうもなく難航していた日米
繊維交渉を、独特の手法で片づけて
しまった。これが高く評価され、
角栄は、ポスト佐藤の有力
候補として急浮上した。
政治的勝負に勝つためには、味方をたくさん
作るより、敵を少なくするほうが大事である。
そのために角栄は選挙のときは、自派に属さ
ない、場合によっては敵となる政治家にも、
カネを渡し続けた。
角栄のイメージは、強気一辺倒で押しまく
るタイプの政治家というところだが、現実
の角栄は、決してそうではない。
角栄は、押してよく引いてもよい、硬軟
両様の戦術の使い手だった。いくつもの
予備プランをもっており、あらかじめ
手を打っておくという、したたかさ
を持った戦略家だった。
田中真紀子には、そういう側面はまるでない。
そのため、角栄は、表面的には敵対者と
されている陣営に対しても、裏で秘かな
よしみを通じておき、必要とあれば、
いつでも裏チャンネルを生かす、
ということができる人だった。
角栄は、そういう隠れチャンネルを
多方面にたくさん持っていて、それ
が角栄の比類ない政治取引能力
の源泉になっていた。
立花 隆 (著)『政治と情念。権力、カネ、女』
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今回も最後までお読みくださり、
ありがとうございました。感謝!