無類の読書家として知られる
お笑い芸人・又吉直樹さん。
小説『火花』でお笑い芸人として初の芥川賞
受賞という快挙を成し遂げ、小説やエッセイの
執筆など精力的な活動を続けておられます。
2年前、『致知』にて、齋藤孝さんとご対談
いただいた際の記事の一部をご紹介します。
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「しんどければしんどいほど自分が一番楽しい」
又吉直樹(お笑い芸人・作家)
『致知』2021年3月号より
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僕の書いた『東京百景』は十八歳で東京へ
出てきてからの体験を綴ったエッセイです。
芥川龍之介は三十五歳、太宰治は三十八歳で亡く
なっている。
『東京百景』を書き終わったのが三十二歳だった
ので、彼らの年齢に自分を重ねていた時期
でもあります。
太宰の『東京八景』の中に、
「人間のプライドの窮極の立脚点は、あれにも、
これにも死ぬほど苦しんだ事があります、
と言い切れる自覚ではないか」
という一文があります。
この言葉に自分を何度も鼓舞してきました。
というのも、皆武器が欲しくてそれぞれの人生
の中で闘っていくと思うんですけど、
いつまで経っても武器を持てなくて負け続ける
人もいる。
太宰もこの本の中で十年間、
あれもこれも失敗したと独白しています。
何もできなかったことが窮極の立脚点。
つまり、負け続けた時間をも武器にできる。
こんな強い言葉はないと思います。
やっぱり負け続けた人は強いですよね。
勝ち続けている人は常に勝たなければいけない
というプレッシャーも相当ありますが、負け続
けている人って、負けても死なないと分かって
いるから、這いつくばってでも現状を打破
しようとする強さがある。
そこがすごく腑に落ちました。
僕が『東京百景』を書いた時は、それまでの
芸人生活を振り返り、これからの未来を考え、
覚悟を決めようとしていた時期だったので、
どんな状況でも生きていくぞという強さを
エッセイに込めました。
その中にも書きましたが、僕は死にたくなる
ほど苦しい夜は、次に楽しいことがある
時までの前振りだと信じています。
嫌なことやしんどいことがあるから創作意欲が
湧いたり、仕事があるから休みが気持ち
よかったり、喉が渇いているとただの水でも
めちゃくちゃおいしい。
そう考えると、しんどい時にしんどいまま
人生を終わらせるのはもったいない。
しんどければしんどいほど、一番自分が楽しい、
気持ちいいと思える瞬間があるはずですし、
それを信じていたいと思うんです。
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今回も最後までお読みくださり、
ありがとうございました。感謝!