歴史作家・望月真司は、一枚の古写真に瞠目
した。「鳥津公」とされる人物を中心に、
総勢一三人の侍がレンズを見据えて
いる。そして、その中でひときわ目立つ大男…
かつて望月が「フルベッキ写真」で西郷隆盛
に比定した侍に酷似していたからだ。この男
は、若き日の西郷なのか?坂本龍馬や勝海舟
らと違い、西郷を写した写真は現存しない、
とされている。よく知られた西郷の肖像
は、彼の死後、外国人が描いたものだ。
「一三人撮り」の大男が西郷だとしたら、
この写真はいつ、何のために撮られたの
か。謎を解明すべく、望月は鹿児島
へ飛んだ。明治維新の中心人物
たちと「南朝」を結ぶ糸、
西郷と公家の関係、武器商人・
グラバーの影…望月は、
次々と驚愕の事実に直面する。
維新の三傑、西郷隆盛の人気は抜群だ。
鹿児島だけでなく、東北でも莫迦受けだ。
上野の西郷さんには明確な意図がある。
裏に隠された思惑を読むのは難しくない。
上野の西郷像は、どの確度から見ても大日本
帝国の陸軍大将ではない。ぽんと突き出た
丸い腹を見て、軍神や稀代の政治家と
いったイメージを持つ人はいない
だろう。犬をかわいがる、ほの
ぼのとした田舎のおじさんといった風情だ。
もし仮に銅像が勇ましき軍人像なら、その
放つオーラが旧武士たちをいたく鼓舞し、
不穏な空気が漂う。つまり反乱の要と
なる。明治政府が、西郷さんの本当
の姿をほのぼのとした肖像画へすり替えたのだ。
西郷の出世の切っ掛けは、第11代薩摩藩主、
島津斉彬だ。大抜擢にあづかるのだが、下
級武士の出世のチャンスは、たいがい
庭方役という役職にある。現代風
にいえば、社長の個人秘書兼
セキュリティーガードだ。
秘書であるからには読み書きは必須だ。
切れ者でなければならない。広い知識
があって、機をみるに敏でなくては
ならず、セキュリティーガード役
であるからには腕が立たなくてはならない。
頭はビジネス的で、身体は
体育会系が条件だ。
幕末維新の古文書、手紙、資料を読む場合、
気をつけなければならないことがある。当
時を想像し、その懐に飛び込んでみるこ
とだ。周りはスパイだらけだ。
漂う緊張感。本当のことも書けない。
したがって障りのある記述はすべて
暗号になっている。歴史家は、そ
の暗号に気をつけながら裏を
読み解かなければならない。
俳人、松尾芭蕉は忍者の古里伊賀の男だ。
地方を旅し、多くの俳句を残しているが、
異常なまでの速足とこれまた尋常で
ない見聞域の広さから、徳川の
隠密忍者ではなかったか、という説が昔からある。
加治将一『西郷の貌(かお)、
明治政府の偽造史』
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今回も最後までお読みくださり、
ありがとうございました。感謝!